ピンクレモネード Pink Lemonade
ピンク色ノベルティ・半矮性
系譜・来歴
- 育成者: Mark K. Ehlenfeldt 博士(USDA-ARS 植物遺伝学者、ニュージャージー州チャッツワース)
- 1991年に Ehlenfeldt 博士が以下2系統を交配:
- 母方/父方の一方: Nicholi Vorsa 博士(ラトガース大学、チャッツワース駐在)が育成した実験的ブルーベリー系統
- もう一方: 'Delite'(USDA・ジョージア大学共同育成のラビットアイ系(V. ashei))
- 1996年に得られた実生の中から選抜(選抜番号: ARS 96-138、別名 G-435)
- ニュージャージーでの試験に加え、西海岸(オレゴン州コーバリス)で Chad E. Finn 博士が評価
- 2005年に「ARS 96-138」として正式リリース
- 2007年に市場アイデンティティ確立のため「Pink Lemonade」と命名
- 2007年の Far West Horticultural Show で「最優秀新低木(Best New Shrub)」を受賞
- 半分がラビットアイ(V. ashei)、残り半分がハイブッシュ系統由来の6倍体(hexaploid)と記述される
樹体特性
- 樹高: 約1.2〜2.1m(米国情報源で 4〜7 ft、4〜5 ft の記載/日本流通情報では 1〜1.5m)
- 樹形: やや直立性(slightly upright)。葉は鋸歯のある細めの濃緑。観賞用低木として景観木にも適する。
- 葉色: 春〜夏は光沢のある緑葉、秋は紅葉、冬は赤褐色の枝が美しい(四季を通じ景観価値が高い)
- 用途的形態: 低生垣(low hedge)や混植境界(shrub border)、コンテナ栽培にも適合
- 落葉性低木
結実特性
- 開花期: 米国では春(5月)に淡ピンク〜白の鐘状花。日本(花ひろばオンライン情報)では4月上旬〜4月下旬
- 収穫期: 米国では7月中旬〜晩夏、その後10月頃まで少量ずつ継続的に結実(中晩生〜断続結実型)。日本では6月下旬〜7月中旬頃
- 低温要求量: 約300時間(情報源により 200〜300時間/200〜500時間と幅あり、ラビットアイ含有率が高いため低〜中温要求)
- 自家結実性: 自家結実するが弱め。単独でも結実するが、収量・果実品質向上のためラビットアイ系または南部ハイブッシュ系の他品種との混植が強く推奨される(日本流通情報では「自家結実弱い」と明記)
- 推奨受粉樹: ブライトウェル、ボニータ、プレミア、その他ラビットアイ系または南部ハイブッシュ系
- 収量: 中程度(moderate)。Sunshine Blue や Emerald など主要品種と比べるとやや劣るが「very productive」との家庭園芸者評あり
果実特性(ピンク色のメカニズム含む)
- 果色: 未熟時は淡黄緑〜黄色、完熟時に光沢のある濃ピンク〜フクシア色に発色(ブルーベリーとしては極めて珍しいノベルティ)
- 果皮: 薄く柔らかく、半透明気味(赤ブドウのような外観)
- 果肉: 淡ピンク色、ジューシーで小さな種子を含む
- 果実サイズ: 中粒(medium)
- 風味: 甘味マイルドで、レモネードのようなフルーティーな風味と表現される。米国情報源では「通常のブルーベリーの2倍の甘さ」とも記述。一般的な青色ブルーベリーよりも酸味が穏やかで甘味優位
- 食感: 果皮が薄く柔らかいため、青色ブルーベリーよりソフトな食感
ピンク色の遺伝メカニズム(アントシアニン低発現)
- 'Pink Lemonade' は「ピンク果実変異体(pink-fruited mutant)」として研究されている
- 33品種を比較した研究で、'Pink Lemonade' は総アントシアニン含量・抗酸化活性ともに最も低いグループに位置付けられる
- アントシアニン生合成経路の構造遺伝子群(CHS, CHI, F3H, DFR, ANS, UFGT 等)の発現が野生型(青色品種)に比べ有意に低い
- 特にアントシアニン生合成の上流制御因子である転写因子 MYB1 の発現量が野生型より顕著に低いことが、青色色素(デルフィニジン系・マルビジン系など)の蓄積抑制をもたらす主因と考えられている
- 完熟時に検出される主要色素はペチュニジン-3-O-アラビノシド(petunidin-3-O-arabinoside)およびシアニジン-3-O-アラビノシド(cyanidin-3-O-arabinoside)が主体で、通常の青色ブルーベリーとは色素プロファイルが異なる
- 結果として、青色色素の蓄積が大幅に抑制され、相対的にピンク〜赤系色素が優勢となり独特のピンク色を呈する
- 副次的効果として、果実中の総アントシアニン量が低いため、青色品種と比較すると抗酸化能(ORAC等)は低い傾向
- 鳥害が比較的少ない(鳥が青色果実ほど認識しない)という観賞・家庭栽培上の利点も報告されている
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone 4–9(情報源により 4a–8b、4–8、6 以上等の幅あり)。最低気温 -30°F(-34°C)程度まで耐えるとの記述
- 耐暑性: 比較的良好だが、90°F(約32°C)超の高温下では結実低下の可能性。最適生育温度域は 60〜75°F(約16〜24°C)
- 半分がラビットアイ系統由来のため、純粋な北部ハイブッシュより暑熱適応性が高く、純粋な南部ハイブッシュより耐寒性が高い「広適応型」
- 病害虫耐性: 文献での具体的記述は限定的(不明)。ラビットアイ系統由来形質を半分持つため、一般にラビットアイの強健性を一部継承していると考えられる
- 鳥害: ピンク色のため青色品種より鳥害が少ない傾向
推奨栽培地
- 米国: ニューヨーク州、ペンシルベニア州、オレゴン州、ノースカロライナ州、ミシガン州、バージニア州など、Zone 4〜8 の温帯〜冷涼温暖地域
- 不適地: フロリダ州(高温過多)、アラスカ州(極寒)、テキサス州の一部(極暑)
- 土壌: pH 4.5〜5.5 の酸性、有機質に富む水はけの良い土壌
- 日本: 北海道〜九州まで広く適応可能と推察されるが、本来は中庸な気候帯(Zone 6 相当)が最適。低温要求量が比較的低めのため温暖地でも結実しやすい
- 用途: 観賞用ランドスケープ、家庭果樹、観光農園・摘み取り園のノベルティ品種として最適。商業大規模栽培向きではない
受粉相性
- 自家結実性は「弱い〜中程度」と評価され、単植でも結実するが収量・サイズが劣る場合がある
- ラビットアイ系(V. ashei)他品種との混植が最も効果的(半分がラビットアイ由来のため)
- 推奨受粉樹: ブライトウェル(Brightwell)、ボニータ(Bonita)、プレミア(Premier)等のラビットアイ系
- 南部ハイブッシュ系も補助的に有効
- 開花期が比較的早めのため、開花期が重なる品種を選定する必要がある
商業利用状況
- 大規模商業生産品種ではなく、ノベルティ/観賞/家庭園芸/観光農園向け
- USDA-ARS から基礎苗木(foundation plant material)として供給され、商業苗木業者が増殖販売
- 米国の主要苗木通販各社(Stark Bro's、Burpee、Raintree Nursery、Berries Unlimited、Epic Gardening 等)で広く販売
- 2007年 Far West Horticultural Show「Best New Shrub」受賞による知名度上昇
- 「likely America's most popular pink blueberry」と評される
- 鮮果としての流通は限定的(柔らかく日持ちが青色品種より短いため)
日本での状況
- 日本でも「ピンクレモネード」の名称で広く流通
- 主要販売チャネル:
- 花ひろばオンライン(苗木部)
- タキイネット通販(10.5cm 鉢挿し木苗)
- ブルーベリーカントリー井戸園芸(接ぎ木苗)
- 大神(おおが)ファーム(7号角鉢)
- 楽天市場、Amazon.co.jp 各種出品(北山ナーセリー等)
- ゆたか農園 など
- 日本国内の品種分類では「ハイブリッド系」と表記される(ノーザンハイブッシュ・サザンハイブッシュ・ラビットアイの3区分とは別枠)
- 家庭果樹・鉢植え・庭木・観光農園のアクセント品種として人気
- 業務用大量流通は確認できず、生果としての日本国内市場流通は限定的
育成者注釈・特記事項
- Mark Ehlenfeldt 博士は USDA-ARS で 12 品種以上のブルーベリー育成に関与した著名な育種家
- 'Pink Lemonade' は史上初のピンク果実ブルーベリーではないが、商業的に最も成功したピンク品種
- ブルーベリーとしては「観賞」「食用」両用途を高度に兼備した稀有な品種
- 6倍体(ラビットアイは6倍体、ハイブッシュは4倍体)であり、種間雑種としての細胞遺伝学的特殊性をもつ
- ピンク色形質はアントシアニン経路の MYB1 転写因子発現低下を主因とした「色素発現抑制型変異」であり、単純なメンデル形質ではない
- 食味は青色ブルーベリーより甘味が強く酸味が控えめだが、目隠しテストでは子供は青色を好んだという報告もあり、視覚的な訴求力が中心的価値
- 鳥害が少ないという付随的利点も家庭園芸では評価される
参考情報源
- USDA ARS News: Pink Lemonade, Razz, Sweetheart, and Cara's Choice
- USDA AgResearch Magazine (2012/Sep): Pink Lemonade blueberries
- USDA ARS Beltsville: Pink Lemonade (1)
- Missouri Botanical Garden Plant Finder: Vaccinium 'Pink Lemonade'
- MDPI Agronomy (2020): Characterization and Analysis of Anthocyanin-Related Genes in Wild-Type Blueberry and the Pink-Fruited Mutant Cultivar 'Pink Lemonade'
- Stark Bro's: Pink Lemonade Blueberry Plant
- Berries Unlimited: Pink Lemonade Blueberry Plant
- Greg.app: Pink Lemonade Blueberry Hardiness Zone
- Greg Alder's Yard Posts: Pink Lemonade blueberry bush — a profile
- Phys.org: 'Pink Lemonade,' 'Razz,' 'Sweetheart,' and 'Cara's Choice'
- 花ひろばオンライン(苗木部)ピンクレモネード
- タキイネット通販 ブルーベリー・ピンクレモネード
- ブルーベリーカントリー井戸園芸(ピンクレモネード接ぎ木苗)
- 大神ファーム ブルーベリー・ピンクレモネード