アラパハ Alapaha
ラビットアイ系
系譜・来歴
- 親系譜: T-65(非特許の選抜系統)× 'Brightwell'(ブライトウェル、非特許)。
- 交配: 1971年、米国メリーランド州 Beltsville(USDA Beltsville)にて、Arlen D. Draper らにより交配が行われた実生集団に由来。
- 選抜: 1972年、ジョージア州 Tifton の Coastal Plain Experiment Station にて選抜。
- 評価地: ジョージア大学 Alapaha 試験農場(Blueberry Research Farm near Alapaha, GA)で長期評価。
- 品種名の由来: 主要評価地に隣接する南ジョージアの「アラパハ川(Alapaha River)」と地名 Alapaha に由来。
- 育成者: D. Scott NeSmith(ジョージア大学)と Arlen D. Draper(USDA)。譲受人は University of Georgia Research Foundation Inc.(UGARF)および USDA。
樹体特性
- 樹勢: 旺盛(vigorous〜medium-vigorous)。日本国内栽培者からも「樹勢はとても旺盛で育てやすい」と評価される。
- 樹形: 半直立性(semi-upright)でやや開帳。クラウン(株元)が狭く、4〜6本の主幹を持ち、機械収穫に適した骨格構造。
- 樹高: 10年生で約 1.8〜2.1 m(6〜7 ft)程度。販売苗木情報では成木で 6〜8 ft(約 1.8〜2.4 m)の例も。
- 枝特性: 細い小枝が非常に多く出る傾向があり、横方向に広がる「マッチ棒様」の細枝が密生する。1本の結果枝に10個近い花芽が付く例もあり、剪定では細枝の整理と弱枝の切り詰めが必要。
結実特性
- 開花期: 晩咲き(late flowering)。標準品種 'Climax'(クライマックス)より 7〜10 日遅い。米南ジョージアでの 50% 開花平均は 3月16日。これにより晩霜害回避効果が高い。
- 収穫期(米国南ジョージア): 早生(early season)。50% 成熟平均は 6月1日。'Climax' とほぼ同時期かやや早い時期に成熟する。
- 収穫期(日本): 関東以西の温暖地で概ね 6月下旬〜7月下旬。ラビットアイ系の中では 'Brightwell'(ブライトウェル)より 2〜3 日早く、ラビットアイ早生群の先頭打者として位置付けられる。
- 低温要求量: 約 450〜550時間(7°C/45°F以下)。資料により「450〜500時間」表記あり。暖地適応性が非常に高い。
- 収量: 多収。米国試験での年平均収量は以下のとおり 'Climax' を大きく上回る。
- Alapaha, GA:5年平均 13.1 lbs/株('Climax' 7.4 lbs に対し +64%)
- Clarksville, AR:3年平均 18.7 lbs/株('Climax' 7.4 lbs に対し +153%)
- Poplarville:'Climax' に対し +23%
- 晩咲き×早生熟という重要特性: 開花は遅く(晩霜害回避)、収穫は早いという「late flowering / early ripening」の組み合わせが本品種最大の遺伝的特長で、霜害リスクの高いジョージア州早生市場で大幅な生産性向上を実現した。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒。早期収穫果で平均 1.35 g、晩期収穫果で 1.0 g 程度(特許明細書)。販売店資料では「medium to large」と記載される場合もある。
- 果皮色: 中程度の青色(medium blue, RHS 101B)、表面ワックス(果粉)は中程度。'Climax' と比較するとやや青味が薄いが、商業的には十分許容される色(pack out 7.2〜7.5)。
- 果肉: 良好な硬さ(good firmness)。'Premier' より硬く、'Climax' よりやや軟らかい程度。
- 果梗痕(スカー): 小さく乾いており、収穫時の引き裂きが少ない(small, dry stem scar)。これが優れた日持ち(shelf life)に寄与。
- 食味: 甘味があり酸味は穏やか〜中程度(sweet with mild to moderate acid level)。日本の栽培者評価では「種のザラザラ感が少なく食べやすい」「ラビットアイ系らしい十分な甘さ」とされる。
- 裂果性: 雨による裂果に強い(improved resistance to rain cracking)。本品種の重要な栽培上の長所。
- 機械収穫適性: 明示的に「mechanical harvesting に適する」と特許明細書で言及されており、株元の狭いクラウンと骨格構造が機械収穫向き。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性ゾーン: USDA Zone 7〜9(販売資料により Zone 6〜9 と記載されるものもある)。ラビットアイ系標準的な耐寒性。
- 耐暑性・耐湿性: 優秀。高温多湿の米南東部および日本の暖地で安定生産可能。
- 晩霜害耐性: 開花期が遅いため、ラビットアイ系の中では晩霜害回避能力が高く、これが本品種の主要な育成目標であった。
- 病害虫耐性:
- 茎枯病(stem canker): 良好な耐性(good tolerance)。
- 落葉性葉病害: やや感受性あり(some susceptibility to various defoliating leaf diseases)。
- 枝枯れ(twig die-back): 中程度発生するが、毎年の更新枝発生(annual rejuvenation)が十分で問題化しにくい。
- 販売店資料では「優れた病害虫耐性および高い暑熱・多湿耐性」との一般評価がなされる。
推奨栽培地
- 米国: ジョージア州を中心とする米南東部(Zone 7〜9)の早生ラビットアイ商業栽培地。霜害リスクの高い地域で特に有利。Arkansas(クラークスビル)試験でも高収量を示し、適応域は比較的広い。
- 日本: 関東以西の太平洋側、東海、近畿、中国、四国、九州など暖地〜温暖地。低温要求量が約450〜550時間と少なく、暖地適応性が高い。
- 寒冷地(東北北部・北海道)には不向き(ラビットアイ系全般の制約)。
受粉相性
- 自家結実性: 部分自家結実性あり(somewhat self-fertile)。ただし実用上は他家受粉が望ましい。
- 推奨受粉樹: 開花期が同調する他のラビットアイ系品種。
- 'Vernon'(バーノン)— 同じ晩咲きラビットアイで最も推奨される受粉相手の一つ
- 'Brightwell'(ブライトウェル)
- 'Titan'(タイタン)
- 'Ochlockonee'(オクロコニー)
- 'Powderblue'(パウダーブルー)など
- 注:晩咲き特性のため、極早咲きの 'Climax' とは開花期が 7〜10 日ずれるため受粉樹として理想的とは言えない。
商業利用状況
- 主用途: 生鮮輸送向け(fresh fruit for shipping)が主。観光摘み取り(U-pick)および加工市場にも適合。
- 商業上の位置付け: 2001年リリース後、米南東部のラビットアイ早生市場における重要品種となり、'Climax' 単独栽培時代に比べ大幅な収量・安定生産改善をもたらした。機械収穫適性により大規模商業園での採用が進んだ。
- 特許状況: USPP16266 は 2023年6月30日 に期間満了し、2026年現在は無特許で自由増殖可能。
- 市場評価ポイント: 早生+晩咲きの希少な組み合わせ、雨裂果耐性、優れた日持ち、機械収穫適性が商業評価項目。
日本での状況
- 国内導入: 米国でのリリース(2001年)後、2010年代に国内苗木流通が始まったとみられる。観光園では2019年頃から本格栽培開始の事例(ブルーベリファームおかざき)が報告されている。
- 流通状況: ラビットアイ系新世代品種として園芸通販・専門苗木店で入手可能。'Tifblue' や 'Brightwell' のような定番ほどの普及度はないが、ラビットアイ早生群のバリエーション品種として位置付けられる。
- 国内栽培者評価:
- 「樹勢が旺盛で育てやすく、雨による裂果にとても強い」
- 「際立った特長はないが、育てやすさ・収量・美味しさのどれも合格点で、欠点が無い品種」
- 「ラビットアイ系の先頭バッター候補で、ブライトウェルより 2〜3 日早い」
- 一方で「細枝が多く樹形が暴れやすい」「横に広がりやすく、まとまりにくい」など、剪定難度を指摘する声もある。
育成者注釈・特記事項
- 本品種最大の特長は 「late flowering(晩咲き)× early ripening(早生熟)」という相反特性の両立 にあり、ジョージア州における晩霜害回避と早生市場確保を同時に実現する画期的な遺伝的特性として育成された。
- 特許明細書では 'Climax'(当時のラビットアイ早生標準品種)に対して全試験地で大幅に多収であったことが詳細に示されており、特に Clarksville, AR では 3年平均で +153%(2.5倍超)の収量差を記録した。
- 機械収穫適性が明示的に育成目標に組み込まれた品種であり、株元の狭さ・主幹本数の少なさが商業大規模園で評価されている。
- 雨による裂果耐性は、生産者の収穫期リスク管理上きわめて有用な形質。
- 育成者 D. Scott NeSmith は同時期〜以降に 'Vernon'、'Ochlockonee'、'Titan'、'Brightwell' 後継などの一連のラビットアイ品種を発表しており、Alapaha はその UGA 系新世代ラビットアイの代表的初期成果。
- 細枝が多発する樹姿は日本の家庭果樹栽培ではやや扱いにくく、毎年の細枝整理・弱枝切り戻しを要する。
参考情報源
- Google Patents – USPP16266P3 "Rabbiteye blueberry plant named 'Alapaha'"
- Google Patents – US20040064863P1 "Rabbiteye blueberry named 'Alapaha'"(公開公報)
- eXtension Foundation – Alapaha: Rabbiteye Blueberry Variety
- Georgia's Integrated Cultivar Release System – Alapaha
- Edible Landscaping – Alapaha Blueberry
- CooksInfo – Alapaha Blueberries
- Talbott Nursery – Alapaha Rabbiteye Blueberry
- Cypress Basin Master Gardeners – Alapaha Blueberry
- ブルーベリファームおかざき – アラパハ品種解説
- Berry&Sun ベリーさんのブログ(アメブロ)– ラビットアイ系ブルーベリーの剪定!クセのあるアラパハ編
- ベリーガーデン – 栽培品種
- UGA Small Fruits – Blueberry Variety Releases from The University of Georgia (D. Scott NeSmith)