アトラス Atlas
サザンハイブッシュ系
注:依頼文では「NHB(ノーザンハイブッシュ)」と記載されていたが、米国植物特許 USPP29,468 P3 の記載および Fall Creek 公式品種ページにより、本品種は 常緑(エバーグリーン)型サザンハイブッシュ で、無低温(zero chill)地域向けに育成されたものと確認された。NHB ではない。
系譜・来歴
- 交配組合せ: 'FF-128'(♀, 未特許)× 'ZF04-002'(♂, 未特許)
- 両親はいずれも Fall Creek 社内の未公開育種系統。
- 交配コード: 'X08-128'
- 交配地: 米国オレゴン州 Lowell(Fall Creek 育種圃場)
- 選抜地: メキシコ・コリマ州コリマ市付近(緯度約19.5°N、亜熱帯気候、年間有効低温時間ほぼゼロ)
- 評価圃場: メキシコ・ハリスコ州 Tala(主評価地)/メキシコ、ペルー、イベリア半島(スペイン・ポルトガル)、モロッコでも試験。
- 育成目的: 無低温(zero chill)/常緑エバーグリーン生産システム向けに、'Biloxi' を超える果実サイズと収穫期集中性、優れた貯蔵性を兼ね備えた高品質生果向けサザンハイブッシュの開発。
樹体特性
- 樹勢: 強勢(vigorous, excellent vigor)。栄養成長が過剰になりやすく、適切な樹勢管理(剪定・水分・肥培)が必要と公式に注意喚起。
- 樹形: 「丸み(rounded)、立性(upright)」。高度に分枝し、節間は短く密。
- 樹高: 平均約 110 cm(特許書類の3年生株)
- 樹幅: 平均約 116 cm
- 節間長: 約 16.2 mm
- 茎色: spinach green(葉緑色)
- 葉:
- 形状: 広楕円〜ほぼ円形(broadly elliptic to nearly round)。'ZF04-002'(披針形)と異なる識別形質。
- 長さ約 55.6 mm、幅約 33.0 mm。
- 葉縁: 全縁(entire)。'Biloxi'(やや鋸歯)と異なる。
- 新葉: 赤橙色(reddish-orange)
- 配列: 互生
- 葉先: 鈍頭〜円頭
- 常緑性: エバーグリーン(常緑)。無低温地域では落葉せず周年葉を保持。
- 花:
- 形状: 壺形(urceolate)
- 花冠色: アンティーク・ホワイト(antique white)
- 花冠長: 平均 10.78 mm
- 香り: 「マイルドで甘いジャスミン様」
- 1花序あたり花数: 平均 6.4
結実特性
- 開花期(メキシコ Tala 圃場、参考値):
- 開花開始: 約 9月15日
- 50%開花: 約 10月15日
- 収穫期(メキシコ Tala 圃場):
- 着色開始: 約 10月15日
- 50%成熟: 約 12月5日
- ピーク収穫: 2月12日
- 最終収穫: 5月1日
- 開花から成熟までの発育期間: 約 45日
- 'Biloxi' および 'Ventura' とほぼ同時期に成熟するが、'Biloxi' より収穫期間が集中する点が特徴。
- 低温要求量(Chill hours): 「7.2℃(45°F)以下で 700時間未満」、実質的に 無低温(zero chill) で良好に結実可能。常緑(エバーグリーン)状態を維持した管理下での評価。
- 収量: 3.30 kg/株/シーズン('Biloxi' の 1.86 kg/株 比で約 1.77倍。特許書類の Tala 圃場データ)。
- 自家結実性: 自家和合性が極めて高い(fruit set 81.2%、花粉稔性 95%)。ただし、果実サイズの最大化のためには 他家受粉が強く推奨(公式)。
果実特性
- 果実重: 平均 2.25 g('Biloxi' は 1.16 g)。中〜大粒。
- 果実径(直径): 平均 20.42 mm
- 果実高(縦): 平均 12.86 mm
- 形状: 楕円扁平形(oblong, flattened shape)
- 果皮色: 中〜やや濃い紫青色(Pantone "Purple Impression"、moderately dark color、果粉=ブルーム少なめで縞状の蝋質)
- 果肉色: ベージュ〜淡褐色("Reed")
- 食味: 甘く酸味は低い(sweet with low acidity)。完熟まで樹上保持すると 強い芳香(very aromatic flavor) を発する。
- 硬度: 完熟時に高硬度(high firmness when ripe)。実験室試験で硬度・貯蔵性ともに優秀と報告。
- 果梗離れ(picking scar): 小さく乾燥(small, dry scar)。手摘み生果向けとして優秀。
- 収穫期間集中性: 'Biloxi' より集中的に成熟。
- 貯蔵性: 長期貯蔵試験で優れた成績(具体的日数の数値は非公開/不明)。
- 用途: 生食用フレッシュ市場(手摘み、hand harvest)専用。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 無低温地域向け品種のため、寒冷地適応性は対象外。常緑性のため、冬季気温が継続的に 45°F(7.2℃)を下回る地域では生育不適。日本の温暖地(南九州・沖縄等)以外では露地越冬は推奨されない。
- 耐病性: 公式資料および特許書類では特定の病害抵抗性データの記載は 不明。
推奨栽培地
- 公式推奨: 無低温(Zero Chill)生産システム専用。「伝統的な落葉型サザンハイブッシュ低温要求生産システム」および「半落葉型低温要求生産システム」では推奨されない(Fall Creek 公式注意事項)。
- 試験実施地域: メキシコ、ペルー、イベリア半島(スペイン・ポルトガル)、モロッコ。
- 適地気候要件:
- 緯度 約19〜25°N/S 程度の亜熱帯〜熱帯高地
- 年間最低気温が 7.2℃を恒常的に下回らない地域
- 常緑エバーグリーン管理が可能な地域
- 不適地: ノーザンハイブッシュ栽培地域、伝統的低温要求型サザンハイブッシュ栽培地域。
- 日本の場合: 沖縄県・奄美等の亜熱帯地域で技術的には適合可能性があるが、現時点で 国内導入実績は確認できず(不明)。
受粉相性
- 自家結実性: 高い(特許試験で自家受粉時 fruit set 81.2%)。
- 公式推奨: 自家結実するが、果実サイズ最大化のため他家受粉を推奨。
- 推奨受粉樹: 公式品種ページでは具体的品種名は明示されていない(不明)。同時期に開花する無低温・低低温要求のサザンハイブッシュ(例: Biloxi、Ventura、JupiterBlue、BiancaBlue 等の Fall Creek Collection 品種)が開花期一致候補と推察される。
商業利用状況
- リリース時期: 2019年末、Fall Creek Farm & Nursery が新たに立ち上げた育種・サービス事業 「The Fall Creek Collection」 の初期ラインナップとして発表。
- The Fall Creek Collection の同時期リリース無低温向け3品種:
- AtlasBlue® 'FCM12-045'
- JupiterBlue®
- BiancaBlue®
- ライセンス形態: 完全管理品種(managed variety)。
- Fall Creek® にライセンスされている。
- 無断増殖は禁止。
- ロイヤリティが課される。
- 苗木の入手・栽培にはFall Creek または同社のライセンス契約パートナーとの正式契約が必要。
- 特許権存続期間: 2018-07-10 〜 2036-09-15(米国)。
- 商業展開: メキシコ、ペルー、モロッコ、イベリア半島(スペイン・ポルトガル)等の無低温〜低低温産地。商業評価は「promising(有望)」と Fall Creek 公式報告。
- 対象市場: 手摘み生果(fresh hand-harvest)市場。
日本での状況
- 日本への正式導入: 確認できず(不明)。
- Fall Creek 社の日本国内ライセンス契約・代理店情報は本調査時点で公開情報からは確認できなかった。
- 大関ナーセリー、オーシャン貿易などの主要な国内ブルーベリー苗木流通業者のオンラインカタログ・ブログ・SNSにおいて「AtlasBlue」「Atlas(FCM12-045)」の取り扱い記載は確認できなかった。
- 一般社団法人 日本ブルーベリー協会(JBA)の品種紹介ページにも記載は 不明。
- 日本での適地: 常緑エバーグリーン生産が必要な品種であるため、日本本土の温帯気候では露地栽培困難。沖縄県・奄美諸島等の亜熱帯地域、または通年加温施設栽培でのみ適応可能性があると推察されるが、実証データは存在しない。
- 管理品種としての制約: 仮に日本で栽培する場合も、Fall Creek とのライセンス契約が必須となり、家庭向け苗木流通は想定されない。
育成者注釈・特記事項
- 常緑(エバーグリーン)専用品種: Fall Creek は本品種を「Zero Chill 生産システム専用」と明記し、伝統的・半落葉型低低温要求生産では商業性が確認されていないため非推奨としている。
- 育種戦略上の位置づけ: Fall Creek の主力 SHB 品種 'Biloxi' の置換・上位互換を目指したもので、特許書類・公式ページの比較対照は一貫して 'Biloxi' および 'Ventura'。果実サイズで 'Biloxi' を約1.9倍上回る点が最大の改良ポイント。
- 栄養成長過剰の注意: 強勢ゆえに枝の徒長が起こりやすく、夏季剪定・水分・窒素管理を含む積極的な樹勢管理が必須。水分要求量も他品種より高いとされる。
- 完熟収穫の重要性: 着色直後ではなく完熟まで待つことで初めて「very aromatic」な香気が発現するため、収穫タイミングが食味を大きく左右する。
- 「The Fall Creek Collection」: 2019年末に開始した Fall Creek 独自の育種・ライセンス事業ブランド。AtlasBlue は同コレクションの 3つの初期無低温向け品種の1つ。
- 発明者構成: Fall Creek 米国本社の主任育種家 David Brazelton、メキシコ駐在の現地育種スタッフ Antonio A. Alamo Bermudo らとの共同育種で、米国×ラテンアメリカの国際育種プロジェクトの代表例。
参考情報源
- Fall Creek Farm & Nursery 公式 「AtlasBlue® 'FCM12-045'」品種ページ
- Fall Creek Farm & Nursery 公式(スペイン語版)
- The Fall Creek Collection ポータル「AtlasBlue® 'FCM12-045'」
- Google Patents: USPP29,468 P3 — Blueberry plant named 'FCM12-045'
- Google Patents: US 2017/0099756 P1(出願公開)
- Justia Patents: PP29,468 — Blueberry plant named 'FCM12-045'
- FreshFruitPortal「Five new blueberry varieties introduced by Fall Creek」(2020-02-05)
- International Blueberry Organization「Five new blueberry varieties introduced by Fall Creek」
- FreshPlaza「Fall Creek introduces five new blueberry varieties」
- 一般社団法人 日本ブルーベリー協会
- 大関ナーセリー(参考。本品種の取扱は確認できず)