エセル Ethel
ラビットアイ系
選抜者・タイプ
- タイプ: ラビットアイ(Rabbiteye)系・古典/原始系統(wild selection、野生選抜系)
- 選抜者: 不明(個体の発見者は記録上特定されていない。UGAティフトン圃場への導入は Dr. W. T. Brightwell に先立つ初期の野生選抜系収集事業の中で行われた)
歴史的意義
- 'Ethel' は、近代のラビットアイ系ブルーベリー育種が始まる前から栽培または野生選抜されていた古典・原始系統(wild selection / heirloom selection)の一つで、品種名のままで栽培されていた個体クローンである。
- ジョージア大学(UGA)のラビットアイ系ブルーベリー育種事業は、1944年に Dr. W. T. Brightwell(ブライトウェル)がティフトン(Tifton, GA)の Coastal Plain Experiment Station に着任して本格化したが、それに先立つ 1930〜1940年代 にかけて、'Ruby'、'Black Giant'、'Hagood'、'Suwannee'、'Clara'、'Myers'、'Walker' とともに 'Ethel' がティフトン圃場に収集・移植された野生選抜素材群の一員として位置付けられている。
- 'Ethel' は、これら古典野生選抜の中でも、後の交配親としての貢献が極めて大きく、近代のラビットアイ商業品種に対する遺伝的寄与が高い 「5大ファウンダー(5 founders)」 ─ 'Myers'、'Black Giant'、'Ethel'、'Clara'、'W4' ─ の一つに数えられる。これら5系統で、現代ラビットアイ品種の遺伝構成の最低でも 73% を占めるとする pedigree 解析が報告されている。
- 'Ethel' を含む4選抜('Myers'、'Black Giant'、'Ethel'、'Clara')からは、現代の主要ラビットアイ品種の核ゲノム遺伝子のほぼ全てが派生したとされ、近代ラビットアイ系の基礎遺伝資源(founder germplasm)としての歴史的意義は極めて大きい。
- 一方で、ラビットアイ系の遺伝的多様性が狭く、近年の品種では近交係数が上昇しているという指摘もあり、'Ethel' を含む founders の遺伝寄与の集中はこの遺伝的多様性低下の要因の一つとなっている。
樹体・果実特性
- 系統的位置: Vaccinium virgatum(ラビットアイ系、6倍体, 2n=6x=72)の野生選抜クローン。米国南東部(南ジョージア・北フロリダ・南東アラバマ)原生種の自然個体から採取・命名された clonal selection。
- 樹勢・樹形: ラビットアイ系の典型的な樹形(直立性〜半直立性、長寿で大株となる多幹性低木)と推定されるが、'Ethel' 個体クローンの樹勢・樹形・樹高に関する詳細な公的記載は不明。古典野生選抜であるため、近代育成品種('Tifblue' 等)と比較すると、樹勢・果実品質の均一性・収量はいずれも劣り、商業栽培向けには改良の余地が大きいと評価され、これが交配親として用いられた一因である。
- 果実特性: 果実サイズ・果皮色・スカー・食味などの公的データは公的文献では詳細に確認できず不明。一般に古典ラビットアイ野生選抜系の果実は、近代品種と比較して 小〜中粒、やや裂果しやすく、スカーは大き目、食味・硬度は中程度 と特徴付けられる傾向がある('Ethel' 個別の数値は不明)。育種試験 "A COMPARISON OF THE ETHEL AND WALKER VARIETIES AS PARENTS IN BLUEBERRY BREEDING"(ProQuest 学位論文索引)など、'Ethel' を交配親とした評価研究が存在し、'Walker' と並ぶ重要な親系統として古くから比較対象とされていた。
- 低温要求量: 不明(ラビットアイ系野生選抜なので一般に 400〜600時間の範囲と推定されるが、'Ethel' 個別値は記録未確認)
- 耐寒性・耐暑性: 'Vaccinium virgatum' 種の典型的特性に従い、米南東部温暖地(USDA Zone 7〜9 相当)に適応するとみられる。耐寒性は中程度、耐暑性・耐乾性は良好と推定される('Ethel' 個別の試験データは不明)
現代RE品種への遺伝的寄与(Tifblue/Climax等の母本)
1. 'Tifblue'(ティフブルー)の交配親としての貢献
- 交配組み合わせ: 'Ethel' × 'Clara'
- 公表年・育成機関: 1955年、ジョージア大学/USDA(Coastal Plain Experiment Station, Tifton, GA)
- 意義: 'Tifblue' は1955年の発表以来70年以上にわたって、米国南東部のラビットアイ商業栽培における 基幹品種(standard) として君臨し続けるラビットアイ系最重要古典品種である。'Tifblue' は同時に、その後の多くの近代ラビットアイ品種(例:'Ochlockonee'、'Powderblue' 系統など)の交配親としても繰り返し使用されており、'Ethel' の遺伝子は 'Tifblue' を経由して現代の幅広いラビットアイ系商業品種に伝播している。すなわち、'Ethel' は現代ラビットアイ系遺伝資源において 'Clara' とともに 最重要の founder の一つ として位置付けられる。
2. 'Climax'(クライマックス)の交配親としての貢献(ユーザー設定上の課題)
- ユーザー指示文では 'Climax' = 'Callaway' × 'Ethel' とされているが、本調査で参照した HTML 文献(販売サイト、UGA、eXtension、特許文献)には、'Climax' の親系譜として "Callaway × Ethel" を明示的に記載するものは確認できなかった。
- 'Climax' は 1974年にジョージア大学/USDA から発表されたラビットアイ品種で、Brightwell の育種計画から派生した早生品種。
- 'Climax' は中粒・小スカー・優れた食味・果実硬度(機械収穫適性)を備え、低温要求量約 400〜450時間、開花期が早く晩霜害を受けやすい特性をもつ。
- UGA/USDA のラビットアイ育種では、'Callaway'(1950年発表の初期品種、'Coastal' とともに UGA 最初のラビットアイ品種)と 'Ethel'(古典野生選抜)はいずれも 'Climax' 系譜上にあり得る親候補だが、HTML上で 'Callaway × Ethel' と明示された一次資料の確認には至らず、当該交配組み合わせの真偽は本調査範囲では未確認(不明)。
- いずれにせよ、'Ethel' は UGA 古典系譜の founder として、'Climax' を含む UGA/USDA 系のラビットアイ品種群の遺伝背景に幅広く寄与していることは、pedigree 解析(5 founders 73%以上)から強く支持される。
3. 現代ラビットアイ品種への遺伝的寄与(広範な後代)
- 'Ethel' の遺伝子は、'Tifblue'(1955)→'Ochlockonee'(2006 特許)他の現代品種へと多段階で受け継がれている。
- pedigree 研究によれば、'Ethel' は 'Myers'・'Black Giant'・'Clara'・'W4' とともに、UGA/USDA 系列のほぼ全てのラビットアイ商業品種('Tifblue'、'Premier'、'Brightwell'、'Climax'、'Powderblue'、'Alapaha'、'Vernon'、'Ochlockonee'、'USDA-Spiers' 等)の遺伝バックグラウンドを構成している。
- 一方、近代品種でこれら founders の遺伝寄与が集中することによる近交係数の上昇(1980年以前の <0.0002 から 2000年代の 0.014 へ)が報告されており、'Ethel' は 現代ラビットアイ品種の遺伝的均質性(genetic narrow base)の象徴的な founder とも位置付けられる。
日本での状況
- 国内流通: 'Ethel' 自体が苗木・果実として日本国内で商業流通している事例は、本調査で参照した日本語ウェブ情報では確認できず不明(一般園芸市場・苗木通販・観光農園品種リストのいずれにおいても、'Ethel' を独立品種として販売している事例は確認できない)
- 位置付け: 日本のブルーベリー栽培では、ラビットアイ系の主力品種は 'Tifblue'、'Homebell'、'Woodard'、'Brightwell'、'Powderblue'、'Premier'、'Climax' 等の 'Ethel' の後代品種または親戚関係の品種群 が主流であり、'Ethel' そのものは栽培品種としてではなく、これら主力品種の 歴史的・遺伝的祖先(古典 founder) としての位置付けで言及されることが多い。
- 栽培情報: 'Ethel' を栽培品種として扱う日本語の品種解説・栽培情報は不明(本調査で確認できる範囲では存在しない)。実用的には、'Ethel' の遺伝形質は 'Tifblue' 等を通じて日本のラビットアイ栽培にも間接的に受け継がれている。
参考情報源
- UGA Institute of Plant Breeding, Genetics and Genomics – UGA Blueberry Breeding Program
- Berries Unlimited – Tifblue Rabbiteye Blueberry('Tifblue' = 'Ethel' × 'Clara' 明記)
- Berries Unlimited – Climax Rabbiteye Blueberry
- Justia Patents – PP17300 'Ochlockonee'('Tifblue' parentage 明記)
- Google Patents – USPP17300P3 'Ochlockonee'
- eXtension – Climax: Rabbiteye Blueberry Variety
- ResearchGate – Pedigree Analysis of Rabbiteye Blueberry Indicates Limited Genetic Diversity(5 founders, Ethel を明示)
- PubMed – Genetic relatedness among rabbiteye blueberry (Vaccinium ashei) cultivars determined by DNA amplification (1993)
- ProQuest – A Comparison of the Ethel and Walker Varieties as Parents in Blueberry Breeding
- ASHS HortScience – 'USDA-Spiers' Rabbiteye Blueberry
- ISHS – Blueberry Cultivar Development at the University of Georgia (Acta Hort. 810)
- We Are GA (UGA) – The Rise of the Georgia Blueberry