レガシー Legacy
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 交配組合せ: Elizabeth(♀)× US75(♂)
- US75 はそれ自身が種間ハイブリッド未公開系統で、Vaccinium darrowii 'Florida 4B' × Bluecrop の交配により得られた選抜系統。
- したがって Legacy の遺伝構成は概ね V. corymbosum 約3/4 + V. darrowii 約1/4。
- Elizabeth は Stanley × Jersey 系統(古典的ノーザンハイブッシュ)由来で、極めて優れた食味で知られる。
- 交配・育成者:
- 交配を行ったのは USDA-ARS Beltsville 育種家 Arlen D. Draper(A.D. Draper)。
- 1976年に Draper と G. Jelenkovic(Rutgers)が Atlantic Blueberry Company 圃場(NJ州 Weymouth)で実生群から選抜。
- その後 Rutgers 側の Nicholi Vorsa、および USDA-ARS(NJ/Marucci Center, Chatsworth)の Mark K. Ehlenfeldt によって長期評価され、1993年に共同で品種登録・公表された。
- 即ち「Mark Ehlenfeldt(USDA-ARS NJ)」は本品種の評価・公表段階の主要育成者の一人であり、交配自体は Draper による。
- 育成目的:
- 北部高品質ハイブッシュの食味と輸送性に、V. darrowii 由来の「常緑性傾向/暖地適応/樹勢旺盛さ」を加え、温暖地〜中間地でも高品質果が得られる適応域の広い品種を育成すること。
- 結果として、暖地ではサザンハイブッシュ的に振る舞い、寒冷地でもノーザンに近い耐寒性を発揮する「ゾーンギャップを埋める品種」と評される。
樹体特性
- 樹勢: 極めて旺盛(vigorous)。USDA-ARS 公式資料および NCSU で「vigorous, productive」と表記。日本販売店でも「樹勢が強く育てやすい」と評される。
- 樹形: 直立性〜やや開帳性(upright, open growth habit, pliable canes)。成木で樹高 約1.5〜2.0 m、樹幅 約1.0〜1.2 m(米国資料:高さ4〜6 ft、幅3〜4 ft)。
- 枝: しなやかで折れにくい(pliable canes)。花芽の着生量が非常に多い。
- 葉: V. darrowii の血統により 越冬時に前年の葉の一部が残る半常緑的傾向がある。NCSU は「前年葉が翌春開花後まで残ることがある」と記述。日本の暖地でもこの常緑性が観察される。
- 若木の生長: 初期生育はやや遅く、本格的な多収はやや成木期(4年目以降)から。
結実特性
- 開花期: 早春(米国 NC 州南東部で約4月1日)。開花は比較的早いが、霜害リスクは限定的とされる。
- 収穫期: 中〜晩生(mid to late)。収穫期間が非常に長いことが大きな特徴。
- NC 州南東部:5月30日〜6月3日頃に初収穫、Bluecrop より遅く Elliott よりはやや早い「late midseason」。
- ニュージャージー:7月上中旬。
- 日本:6月下旬〜7月下旬(中部〜暖地)/ 7月中下旬(冷涼地)。販売店表記は「6月中旬〜7月下旬」など。
- 低温要求量(chill hours, < 7.2℃):
- 一次資料・販売資料で500〜600時間(Fall Creek 等)/ 500〜700時間(多くの暖地適応資料)/ NCSU 公表資料では700〜800時間との記述もあり、文献間で開きがある。
- 概ね「500〜700時間」が一般に受容されている範囲で、ノーザンハイブッシュ系としては低く、暖地でも休眠打破が比較的容易。
- 収量: 極多収(very high yield)。成木で約8〜10 lb(約3.6〜4.5 kg)/株、優良条件下では 10〜15 lb/株。長期収穫可能な特性により積算収量が非常に高い。
- 自家結実性: 一応自家結実するが弱め。他家受粉により着果・果実サイズ・糖度が向上するため、近接にノーザンハイブッシュ別品種(Bluecrop、Liberty、Jersey 等)を併植することが推奨される。
果実特性
- 果実サイズ: 中〜大粒(直径 約17〜19 mm)。初期収穫は大粒だが、後半の収穫ほどやや小ぶりになる傾向。
- 果色: 明るい粉青色(light blue)、果粉(bloom)豊富で外観良好。
- 食味:
- 「ハイブッシュ中でもトップクラスの食味」と評価される(NCSU「rated as one of the best flavored」、USDA「superior in scar and flavor」)。
- 甘味と酸味のバランスが優れる。糖度 約12〜15度(日本販売店データ)、甘さ・酸味・風味とも 4段階評価で最高ランクとする評価多数。日本人嗜好に合うとされる。
- 果肉: 硬く(firm)しっかりしており、生食・加工とも適性が高い。
- 果梗離れ(stem scar): 小さく乾燥(small dry scar)。機械収穫適性が高い。
- 日持ち(shelf life): 良好。輸送性・貯蔵性に富み、市場出荷・長距離輸送に適する。
- 用途: 生食、観光摘み取り、市場出荷、ジャム、冷凍、加工全般。機械収穫・手摘みいずれも可能。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: ノーザンハイブッシュとしては中庸〜やや高い。USDA Hardiness Zone 5〜8で栽培可能(公式・販売店資料いずれも一致)。NCSU は「春の凍結時の花の耐寒性が良好」と記述。
- 耐暑性: V. darrowii 血統によりノーザンハイブッシュ品種としては高い。Zone 8 まで適応し、暖地でも休眠打破・果実品質を維持できる稀有な品種。
- 適応の幅: 「ゾーン5〜8で栽培可能」「気候変動・気温変動の大きい地域でも他のハイブッシュより産性が安定」と評される 適応の幅が極めて広い品種。
- 病害虫耐性:
- 茎枯病(Botryosphaeria stem canker, Botryosphaeria corticis)に感受性がある(susceptible) ため、暖地〜湿潤地では選択的剪定・適切な灌水管理が必要。
- 春の晩霜時の花の耐凍性は良好。
- その他特異な耐病性データは公開資料では不明。
- 土壌適応性は広く、過湿にもある程度耐えるとされる(暖地販売資料)。
推奨栽培地
- 米国の公式推奨地域: 南ニュージャージー、メリーランド、バージニア、ノースカロライナ、アーカンソー、オレゴンなど。
- 「高チル要求のハイブッシュが厳しいやや温暖な地域」で特に有用。
- USDA Hardiness Zone 5〜8(ほぼ米国本土の中緯度全域に対応)。
- 日本では 東北南部〜九州まで広く栽培可能。販売店表記では「東北地方〜九州の高冷地が適地」「東北南部〜沖縄の暖地でも栽培可能」など、両極端の評価が見られるが、いずれも極めて広い適応域を示している。
- 暖地ではサザンハイブッシュ的に振る舞い、半常緑となる。
受粉相性
- 自家結実性: 弱めながらあり。1本でも結実する。
- 推奨受粉樹: 開花期の重なるノーザンハイブッシュ品種。
- Bluecrop、Liberty、Duke、Jersey、Nui、Reka、Elizabeth 等。
- 暖地ではサザンハイブッシュ系(O'Neal 等)とも受粉相性があるとされる。
- 単植の場合より2品種以上併植する方が果実サイズ・収量が顕著に増加する。
商業利用状況
- 1993年リリース後、ノーザンハイブッシュ系の世界的主要商業品種の一つとして広く普及。
- 用途:生食市場(fresh market)と加工市場の両方に対応。
- 手摘み・機械収穫いずれも適応:果梗離れが乾いて小さいため機械収穫適性に優れ、果実が硬く輸送性が高いため遠距離輸送・大規模商業生産に向く。
- 露地慣行栽培、トレリス(垣根仕立て・ハイ密度植栽)、容器栽培など多様な仕立てに適応。「商業生産者にとって最も適応性の高い品種の一つ」(Fall Creek)と評価。
- 米国南東部、太平洋岸北西部(オレゴン)、メキシコ、南米(チリ、アルゼンチン)など複数地域で商業栽培実績あり。
- USPP 非取得のため自由増殖が可能で、世界各国の苗木業者・育種プログラムで広く利用され、Norman、ZF08-070 など多くの後発品種の親としても重要。
日本での状況
- 日本国内での流通は活発。タキイ種苗、花ひろばオンライン(苗木部)、グリーンでGO!、園芸ネット、楽天市場、Yahoo!ショッピング、Edible Landscaping 等の主要苗木販売店で 2年生〜4年生苗(接ぎ木苗・挿し木苗とも) が継続的に販売されている。
- ブルーベリー専門の観光摘み取り農園・直売農園でも導入例多数。例:「ツクベリーやさと」など個人農園で「甘さと酸味のバランス絶妙、クセのない高評価品種」として位置付け。
- 適応地域は広く、東北南部〜九州、暖地〜中間地まで幅広く栽培可能で、家庭栽培初心者向け品種としても推奨される。
- 日本における植物品種登録・特許の状況は確認できず(不明)。米国でも特許未取得品種であり、国内での利用上の権利的制約はないと考えられる。
育成者注釈・特記事項
- Mark Ehlenfeldt(USDA-ARS NJ, Marucci Center) は Legacy の評価・公表段階の主要研究者で、その後も Nocturne(2015年, V. constablaei 含む耐寒種間ハイブリッド)など多数の特殊用途品種を育成。Legacy はその系譜の中で「長期収穫・広域適応・高品質」を実現した先駆的成功例。
- Legacy の最大の特徴は ノーザンとサザンの両方の長所を併せ持つ「ゾーンギャップ品種」である点。1990年代当時、北部高品質品種を温暖地で安定生産することは困難であり、本品種はその橋渡しとして位置付けられた。
- 半常緑性・収穫期の長さ・果実サイズの後半縮小傾向・茎枯病感受性は V. darrowii 由来の形質であり、生産現場ではこれを理解した上での剪定管理が重要。
- 機械収穫適性が高く、輸送性に優れる一方、近年の南米産フレッシュブルーベリー輸入増による晩生市場の価格低下により、米国本土での新植動向は地域差が大きい。
- 後継育種素材としても極めて重要で、Norman(USPP28,502)、ZF08-070 をはじめ数多くの特許品種が Legacy を親に持つ。
参考情報源
- USDA-ARS Beltsville「Legacy」公式品種紹介
- North Carolina Blueberry Journal「Blueberry cultivar 'LEGACY'」(2011)
- NCSU Blueberry Genetics & Genomics Laboratory「Legacy」
- Fall Creek Nursery「Legacy」商業生産者向けプロファイル
- USDA ARS Online Magazine「A New Blueberry for Home Growers」(2015年6月号)
- Edible Landscaping「Legacy Blueberry」商品ページ
- Raintree Nursery「Legacy Blueberry」
- Hartmann's Plant Company「Legacy Blueberry - Retail」
- Oregon Blueberry「Legacy variety」
- 花ひろばオンライン 苗木部「ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系 レガシー 苗」
- グリーンでGO!「ブルーベリー 苗 レガシー(ノーザンハイブッシュ系)」
- 園芸ネット「ブルーベリー(ハイブッシュ系):レガシー5号ポット」
- ツクベリーやさと「レガシーについて」
- ASHS HortScience「Register of New Fruit and Nut Cultivars List 48」(2016)
- Minneopa Orchards「The Legacy Blueberry」
- タキイ種苗「ブルーベリー・レガシー」