コビル Coville
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 交配親: GM-37(Jersey × Pioneer)× Stanley
- GM-37 はFrederick V. Coville博士の育種番号付き未命名選抜系統。Jersey(Rubel × Grover、1916年交配・1928年公表)とPioneer(Brooks × Sooy、1908年交配・1920年公表)の交配から得られた。GM-37は果実大粒性に優れる一方、食味(風味)に難があったため、最も食味の良いとされたStanley(Katharine × Rubel、1921年選抜)を花粉親に再交配し、大粒性と優れた風味の両立を狙った。
- 交配年: 1930年。Coville博士存命中に行われた最終期の重要交配の一つ。
- 品種名の由来: 米国ハイブッシュブルーベリー栽培化の祖であるFrederick Vernon Coville博士(1867–1937、USDA主任植物学者)の功績を顕彰して命名された。同名の博士本人は1937年に逝去しており、博士の没後にG. M. Darrow(USDA)らが選抜継続のうえ1949年に正式公表した。
- 後継研究: Coville博士没後、Darrow博士がUSDA-ARSとニュージャージー州農業試験場の共同体制で育種を継続。Coville(コビル)は、Pemberton、Burlington、Dixi等と並びCoville博士の交配ストックから派生した「ポストCoville世代」の代表品種の一つ。
樹体特性
- 樹勢: 強い(vigorous)。
- 樹形: 開張性〜やや開張性(spreading/very spreading)。Rutgers大学資料は "Very Spreading" と分類。
- 樹高: 約1.5〜1.8 m(5 ft前後)、樹幅も同程度に広がる。剪定により4〜6 ft(約1.2〜1.8 m)程度に維持可能。
- 枝: 古典品種に多い太く長い直立性の主軸を作りつつ横に開く。
- 観賞性: 春に淡桃色を帯びる白色の鈴形花を多数着ける。秋には葉が黄〜赤に紅葉し、冬には赤褐色〜煉瓦色(brick red)の枝肌が観賞対象となる。Stoneleighほか北米の植物園資料で景観樹としても紹介される。
結実特性
- 開花期: 晩めの中生〜晩生(late midseason)。同系のHerbert、Lateblue等と開花期が近い。
- 収穫期: 晩生(late season)。米国東海岸基準で7月下旬〜8月上中旬。Pickyourown等の取りまとめでも "late summer (July-August)" の代表品種として位置付けられる。
- 低温要求量(チルアワー): 概ね800時間前後(約7°C/45°F以下の低温要求量)。古典的ノーザンハイブッシュとして高低温要求型に分類される(具体数値に関するUSDA一次資料の数値は本調査で確認できず「概ね800時間」は北米栽培ガイド等の標準的扱いに基づく)。
- 結実までの年数: 一般的なNHBに準ずる(植え付け後2〜3年で結実開始、5〜6年で本格収量)。
果実特性
- 果実サイズ: 大粒〜極大粒。USDA系評価で同時代品種中最大級と紹介され、Rutgersの色階評価でも最大粒群(サイズスコア "Large")。
- 果皮色: 明るい青色〜中程度の青色、白いブルーム(果粉)が乗る。
- 食味: 香り高く(highly aromatic)、酸味が比較的しっかり残るタイプ。完全に完熟させるとサブアシッド〜甘味優勢に転じ、デザート品質は非常に高いと評価される("very high dessert quality")。Rutgers資料は "firm, highly aromatic, tart, very high dessert quality" と総括。
- 果肉: 締まり(firm)が良い。裂果しにくく、収穫後の日持ち(shelf life)に優れる。
- 用途: 製菓・パイ・ジャム等の加工適性が特に高く評価され、デザートベイキング向きとして米国家庭園芸・観光農園で定番扱い。完熟果は生食でも上質。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 強い。USDA Zone 3b〜7(Stoneleigh/Valley View Farms等の流通情報)。Pickyourown型の販売情報ではZone 5〜11まで適応との記述もあり、地域条件次第で温暖地寄りでも栽培可能。
- 耐病性:
- 古典品種としては概ね一般的な水準。Rutgers/流通情報では "good disease resistance" と紹介される。
- 一方で、ノーザンハイブッシュ古典銘柄一般と同様、ファイトフトラ根腐病、茎枯れ病(stem blight)、ミイラ病(mummy berry)等への絶対的な強さは現代の選抜品種(Liberty、Draper等)には及ばず、本調査では具体的な耐病性ランクの一次情報は確認できず「不明」とする項目もある。
- 害虫: NHB一般同様、ジャパニーズビートル、ショウジョウバエ類、各種カミキリ・タマバエ類への注意が必要(品種特異的な感受性データは本調査では確認できず)。
推奨栽培地
- 米国: 北東部・中西部・北西部太平洋岸など、ノーザンハイブッシュ適地全般。USDA Zone 3b〜7が中核。
- 日本: 東北〜関東以北の冷涼地、ならびに中国・四国・九州の高冷地(標高400 m以上目安)が適する。NHB古典晩生品種として、低温要求量を満たせる地域でこそ本領を発揮する。
- 土壌: pH 4.0〜5.2、有機質豊富で排水良好な砂質ローム〜ロームを好む。ピートモス等を投入した酸性床土が必須。
受粉相性
- 自家結実性: 部分的に自家結実性あり(partially self-fertile)。単木でも結実するが、結実率・果実サイズ・収量を高めるためには他品種混植が強く推奨される。
- 推奨混植: 開花期の重なるNHB中生〜晩生品種(Herbert、Berkeley、Bluecrop、Lateblue 等)。
- 受粉媒介: 花にはミツバチ、マルハナバチ、その他花粉特化種(pollen specialists)を含む多様な野生蜂が飛来し、効率的な受粉が行われる。
商業利用状況
- 1949年の公表以来、米国東部を中心に長期間にわたって栽培された古典商業品種。
- 大粒で日持ちが良く、加工適性に優れることから、ピックユアオウン(U-pick)農園、家庭園芸、観光農園を中心に北米・欧州・日本で長く扱われている。
- 現代の大規模商業生産では、より硬度・揃い・耐病性に優れたDraper、Liberty、Last Call等の新興品種が主流となり、Coville自体は主役の座を譲りつつあるが、晩生大粒・芳香系のヘリテージ銘柄として継続流通している。
- 米国苗木流通(Stark Bro's、Maya Gardens、Valley View Farms、Catskill Native Nursery 等)でいまも一般販売されている。
日本での状況(群馬おおつぶ星系統への遺伝寄与含む)
- 苗木流通: 「コビル」名称で日本国内のブルーベリー苗木専門店・通販を通じて流通。NHB晩生大粒・加工向き古典品種として、家庭園芸・観光農園で導入事例がある。
- 群馬県オリジナル品種「群馬三兄弟」(はやばや星・あまつぶ星・おおつぶ星)の親系統としての寄与:
- 群馬県農業技術センター(現・群馬県農業技術センター)において、Collins(コリンス、USDA・NJAES育成、1959年公表、Stanley × Weymouth系)と Coville(コビル)の自然交雑実生から選抜されたのが、「はやばや星」「あまつぶ星」「おおつぶ星」の3品種であると、関連解説(カネコ種苗、苗木通販各社、栽培家ブログ等)に明記されている。
- 群馬県農業技術センター研究報告(堀込充ほか)によると、1981年に混合採種された自然交雑実生の選抜から育成が始まり、はやばや星(早生)、あまつぶ星(中生・甘味優勢)、おおつぶ星(中生・酸味優勢・大粒)の三兄弟として確立された。
- 観察上、「おおつぶ星」「あまつぶ星」とも樹形が直立性で母樹Covilleに似るとの観察があり、樹姿・大粒性にCoville由来の遺伝寄与が示唆される。一方、果実の食味や酸味バランスはCollins寄りと評される個体も多い。
- 「あまつぶ星」「おおつぶ星」は約2 g前後の大粒で果汁感に富み、収穫期は7月(NHB中生〜晩生帯)と、Coville晩生大粒の特性を国内環境に再構成した育種成果として位置付けられる。
- 日本国内では、Coville単独品種としては群馬三兄弟ほどの普及はないが、「群馬三兄弟の親」「ノーザンハイブッシュ古典晩生の代表」として育種史的に重要視されている。
育成者注釈・特記事項
- 品種名「Coville」は、米国ハイブッシュブルーベリーの栽培化を1906年〜1937年にかけて主導したFrederick Vernon Coville博士に因む。博士は野生株の選抜(Brooks、Sooy、Rubel、Grover、Russell等)からハイブッシュ系統の確立、土壌酸度(pH)と菌根の関係性の解明、栽培体系化など、近代ブルーベリー産業の礎を築いた人物。
- Coville博士の育種ストックは博士没後もUSDA-ARS(Beltsville)に引き継がれ、George M. Darrow博士らによってBerkeley、Coville、Earliblue、Bluecrop、Herbert等の主要品種として体系的に公表された。Covilleは博士本人の名を冠した記念碑的銘柄である。
- 同じ「GM-37 × Stanley」由来の交配集団からは、Coville博士晩年の選抜「Dixi」("I have spoken" の意のラテン語名で1937年命名)も派生しており、Dixiと姉妹関係にあるとされる解説もある(出典により記述差異あり、要注意)。
- 大粒・芳香・酸味のしっかりした個性的な味は、現代の「甘さ・硬さ最優先」のトレンドからやや外れるが、加工適性・観賞価値・遺伝資源価値において継続評価されている。
- 日本での流通名は「コビル」が主流。一部資料では「コヴィル」「コビール」表記も見られる。
参考情報源
- USDA "Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial"
- USDA-ARS "Historic Collection at NAL Gives Insight into Blueberry's Domestication"
- USDA-ARS "Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library" (AgResearch Magazine, 2011年5月)
- USDA-ARS "Blueberries: Making a Superb Fruit Even Better" (AgResearch Magazine, 2011年5月)
- USDA National Agricultural Library "Frederick Vernon Coville Records on Blueberries"
- "Improving the Wild Blueberry"(Frederick V. Coville博士最終稿、GM-37×Stanley交配の詳細記載)
- HathiTrust Digital Library "Two new blueberry varieties, Coville and ..."(Darrow & Scott, 1949)
- Rutgers NJAES "FS419: Selecting Blueberry Varieties for the Home Garden"
- Pickyourown.org "Blueberry Varieties - Characteristics, Ripening Order and More"
- Natural Lands Stoneleigh "Highbush Blueberry (Vaccinium corymbosum 'Coville')"
- Valley View Farms "Coville Blueberry (Vaccinium corymbosum 'Coville')"
- ItalianBerry "110 years of blueberry history: it all started with F. Coville and E. Coleman White"
- カネコ種苗株式会社「おおつぶ星」
- カネコ種苗株式会社「あまつぶ星」
- ナエギブ「おおつぶ星 ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系の特徴と育て方」
- ナエギブ「はやばや星 ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系の特徴と育て方」
- 安曇野の丘村山ブルーベリー園「『あまつぶ星』親の形質が似ている!」
- 群馬県農業技術センター研究報告「ブルーベリー新品種『はやばや星』の育成」
- JAグループ群馬「群馬の農畜産物 ブルーベリー」