ジャージー Jersey
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- ノーザンハイブッシュブルーベリー育種の父といわれる F. V. Coville(USDA)が、ニュージャージー州ホイッツボグ(Whitesbog Village)における Elizabeth C. White との共同育種事業の中で 1916 年に交配・選抜した実生から得られた個体。1928 年に「Jersey」として公表された。
- 親系譜: 'Rubel' × 'Grover'。両親ともに野生選抜種で、'Rubel'(1912 年ホイッツボグ近郊の野生実生から Rube Leek にちなみ命名・選抜)、'Grover'(同地域の野生株から Russell Grover にちなみ命名)。いずれも初期の北部ハイブッシュ育種の基礎遺伝資源。
- 'Rubel' は現在も栽培されており、商業ブルーベリー育種における最重要の母本のひとつ。Jersey はその直接の子であるため、北米ハイブッシュ系統樹の中核を占める「歴史的基幹品種」と位置付けられる。
- リリース後、ミシガン州を中心とする北米のブルーベリー産業の最初期拡大を牽引し、20 世紀中盤の主要商業品種となった。
樹体特性
- 樹勢: 強。Coville 時代の品種としては安定して旺盛な生育を示す。
- 樹形: 直立性(upright)で大型に育つ高木型ハイブッシュ。OSU 資料では "very vigorous, large, upright" と記述される。
- 樹高: 成木で約 1.5〜2 m(適地ではそれ以上)。骨格の通った高木に育つため、収穫作業時の脚立利用や機械収穫を想定した整枝が一般的。
- 適応性: 土壌適応性に優れ、痩せ地や排水のやや劣る土壌にも比較的耐える。これが商業初期に広く採用された理由のひとつ。
結実特性
- 開花期: 比較的遅咲き。晩霜害の回避に有利な特性とされる。
- 収穫期: 晩生(Late Season/Mid-to-Late)。米国では 8 月、Rutgers の評価では「Very Late」と分類される。日本では 7 月中旬〜8 月上旬が目安。
- 低温要求量(チリングアワー): 約 800〜1,000 時間以上(7.2℃以下)。北部ハイブッシュとしては標準〜やや高めで、十分な低温が確保できる地域向き。
- 収量: 多収(豊産性)。樹勢の強さと相まって、成木で 15〜25 ポンド(約 6.8〜11 kg)/ 株を安定的に確保するとされる(園芸店資料)。一方、近年のミシガン州のデータでは老木化や病害(後述の Stem Gall Wasp など)により「収量低下」が報告されており、衰退要因となっている。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒〜やや小粒(small to medium)。日本流通情報では 13〜16 mm 程度の表記。
- 果皮色: ミディアムブルー(中庸の青)。果粉あり、外観は良好。
- 裂果性: 裂果(クラッキング)に強いと評価される。
- 果柄痕(スカー): 中程度。
- 食味: マイルドで甘く、酸味は穏やか〜中程度。「sugar-sweet」「good flavor」と評され、特に加熱後の風味維持に優れることから加工適性が高い。糖度は日本国内苗木業者表記で 12〜15 度前後。
- 果実硬度・貯蔵性: 果皮はやや薄く、果実は柔らかめ(soft)で日持ちが短い。MSU は「shelf life が短くフレッシュ市場には不向き」と明記。
- 用途適性: 加工(ジャム、ジュース、冷凍、菓子原料)および機械収穫+プロセッシング向けに長く利用されてきた。生食もされるが、流通距離・棚持ちの面で現代のフレッシュマーケット主力品種には劣る。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 非常に強い。USDA ハーディネスゾーン 4〜7 に適応。MSU は「ミシガン州で最も耐寒性の高い品種のひとつ」と評価。
- 耐暑性: ノーザンハイブッシュとしては比較的耐暑性があり、日本流通情報では「暖地適応性も比較的高い」と紹介されることがある。ただし基本は冷涼〜温暖地向き。
- 耐乾燥性: 比較的強いとされる(園芸店資料)。
- 耐病性プロファイル:
- ミイラ病(Mummy Berry, Monilinia vaccinii-corymbosi): 葉・新梢感染相に対しては抵抗性、花器感染相には中程度の感受性(MSU)。一方、Penn State Extension の一覧では Jersey は「感受性品種」に分類されており、地域・年次で評価が分かれる。要警戒品種。
- 炭疽病(Anthracnose, Colletotrichum): 中程度の感受性(moderately susceptible)。
- フォモプシス枝枯病・茎潰瘍(Phomopsis Stem Canker): 感受性。
- 赤輪点ウイルス(Red Ringspot Virus): 抵抗性/耐性ありと評価される(Bluecrop と並び)。
- 根腐病(Root Rot, Phytophthora): 抵抗性傾向との記述あり。
- ステムゴール・ワスプ(Stem Gall Wasp, Hemadas nubilipennis): 非常に感受性が高い。これが 2018 年以降ミシガン州で Jersey 園地の伐採が進んでいる主要因と MSU が指摘。
推奨栽培地
- 米国:ミシガン州、ニュージャージー州、ペンシルベニア州、ニューイングランド地方、太平洋岸北西部(オレゴン州・ワシントン州)など、十分な低温量が確保できる USDA ゾーン 4〜7 の地域。
- カナダ:南オンタリオ、BC 州沿岸部など。
- 日本:東北地方〜関東以北の冷涼地・寒冷地、長野・山梨・北海道などが本来適地。低温要求量が高めなため、暖地では不安定。ただし耐暑性・土壌適応性の高さから関東以西の家庭栽培でも一定の評価がある。
受粉相性
- 自家結実性: 部分的に自家結実するが、異品種との他家受粉で果実サイズ・収量が向上する典型的なノーザンハイブッシュ。
- 推奨受粉樹: 同じノーザンハイブッシュ系の中〜晩生品種。Bluecrop、Blueray、Berkeley、Coville、Darrow、Elliott など開花期が重なる品種が組み合わせやすい。
- 日本流通の解説では Nui(ヌイ)、Legacy などとの混植も推奨される(暖地寄りでの組合せ)。
商業利用状況
- 1928 年のリリース後、20 世紀中盤の北米ブルーベリー産業を支えた基幹商業品種のひとつ。特にミシガン州では Jersey が産業初期拡大の中心品種であり、機械収穫・加工原料供給を担った。
- ピーク時には主要産地で広く植栽され、加工市場(冷凍、ジャム、菓子、ジュース)向け原料の代名詞的存在として長年利用された。
- 2010 年代後半以降は、フレッシュマーケット偏重の市場構造変化に伴い、棚持ちの短さを理由に Jersey の置き換えが進行。MSU 調査によれば「ミシガン州生産者の 59.1%」が依然として Jersey を生産しているものの、Stem Gall Wasp による被害と高齢化園地の収量低下が重なり、伐採・改植が継続中。
- 遺伝的貢献: USDA/州立大の後続育種における主要交配親として広範に利用された。'Bluecrop'(USDA, 1952)、'Berkeley'(USDA, 1949)、'Coville'(USDA, 1949)、'Herbert'(USDA, 1952)、'U.S. 1'(→ 'Elliott' ほかへ波及)など、20 世紀中盤の主要 USDA 系品種の系譜に Jersey が直接または間接的に組み込まれている。現代のノーザンハイブッシュ品種の系統樹を遡ると Jersey に行き着く例が極めて多く、'Rubel' とともに「現代ハイブッシュ品種の遺伝的礎石」と位置付けられる。
日本での状況
- 「ジャージー(Jersey)」としてノーザンハイブッシュ系の晩生・豊産品種として古くから流通。家庭栽培向けの定番銘柄のひとつ。
- 苗木は花ひろば(楽天市場)、ガーデンガーデン、苗木部、日本花卉ガーデンセンター、ドラゴン農園など主要なブルーベリー苗木業者で広く取り扱いがある。2 年生挿し木苗で 2,000 円台前後から入手可能。
- 国内解説では「樹勢が強く豊産性、土壌適応性が高く、初心者向け」「直立性で樹形が整いやすい」「果実は中粒で甘酸のバランスが良く、加工適性が高い」と紹介されることが多い。
- 暖地ブルーベリー栽培(関東以西平地)でも一定の実績があり、耐暑性・耐乾燥性の点で評価される一方、低温要求量がやや高いため極端な温暖地では落葉・休眠が不安定になる場合がある。
育成者注釈・特記事項
- F. V. Coville による「初期商業ハイブッシュ品種」の代表格であり、'Rubel'・'Pioneer'・'Cabot'・'Katharine' などとともにブルーベリー栽培化の最初期世代を構成する。1928 年公表は栽培品種化された純系ハイブッシュの中でも最古級。
- ホイッツボグ(NJ)における Coville × Elizabeth C. White の協働は 1911 年から約 26 年にわたって続いた USDA とプライベート篤農の歴史的提携であり、Jersey はその成果のひとつ。
- 同年(1928 年)に公表された他の Coville 品種としては 'Cabot'、'Katharine'、'Pioneer'、'Rancocas' などがあり、Jersey はその中でも特に晩生・豊産・耐寒性のバランスで頭角を現し、商業園地への普及が早かった。
- 歴史的位置付け: NHB(Northern Highbush Blueberry)歴史品種・USDA-ARS(前身組織)育成。'Rubel' とともに現代ブルーベリー品種の遺伝的祖先として今なお育種素材として参照される。
- 現代視点での弱点:果実硬度の不足(フレッシュマーケット適性が低い)、Stem Gall Wasp 被害の深刻化、Phomopsis 感受性。これらが置き換えの主要理由。
- 名称の由来:開発拠点であるニュージャージー州(New Jersey)にちなむ。
参考情報源
- Whitesbog Village Gazette – 1928 Jersey (Rubel × Grover)
- Frederick V. Coville and the History of North American Highbush Blueberry Culture(Taylor & Francis)
- ItalianBerry – 110 years of blueberry history: Coville and Elizabeth Coleman White
- New Jersey Digital Highway – The Blueberry Industry
- MSU Extension – Blueberry Varieties for Michigan
- OSU Extension – PNW 656 Blueberry Cultivars for the Pacific Northwest
- Rutgers NJAES – FS419 Selecting Blueberry Varieties for the Home Garden
- Plant Me Green – Blueberry Jersey (Northern Highbush)
- Raintree Nursery – Jersey Blueberry
- Food Forest Nursery – Jersey Blueberry Plant For Sale
- Penn State Extension – Blueberry Disease (Mummy Berry)
- UMass Extension – Highbush Blueberry Diseases
- 花ひろば – ジャージー(ノーザンハイブッシュ系)
- 苗木部 – ジャージー(ブルーベリー)
- ガーデンガーデン – ジャージー 2 年生苗
- ドラゴン農園 – ブルーベリー品種別特性一覧表