デライト Delite
ラビットアイ系
系譜・来歴
- 親系譜: T-14(Callaway × Ethel)× T-15(10-144(Clara × Black Giant)× W8)の交配により得られた実生選抜系統。注: 国内資料では「キャラウェイ × エセル」と表記される。「Clora」は「Clara」の表記揺れと推定。
- 来歴: 1940年代初頭にジョージア州ティフトン(Tifton)でDr. Tom Brightwell(W.T. Brightwell)が開始したラビットアイ系ブルーベリー育種プログラムの成果の一つ。USDAとの共同育成体制下で1969年に発表された。'Tifblue'(1955年発表)と同じ育種系列に属するが、Delite自体の親はTifblueではない。
- 品種名の由来: 「Delite(=Delight、歓喜・喜び)」の語に由来。卓越した食味(甘味・香り)から命名されたと推定される。
- 後代品種: 'Pink Lemonade'(ピンクレモネード、2005年USDA-ARS発表)の父本(雄親)として極めて重要。後述「Pink Lemonadeへの遺伝寄与」参照。
樹体特性
- 樹勢: 中程度〜強勢(moderately vigorous)。育てやすく初心者向けと評価される。
- 樹形: 直立性(upright)。葉密度はやや疎(lacking density of foliage)と記述される。
- 樹高: 約 1.8〜2.4 m(6〜8 ft)が一般的。資料により最大3〜4.5 m(一部資料は最大15 ftまで言及)に達する例も。日本での地植え・鉢植えでは1〜2 m前後で管理されることが多い。
- 葉張り: 1〜1.5 m
- 観賞性: 秋の紅葉が鮮やかな赤〜オレンジ色で観賞価値も高い。
結実特性
- 開花期: 4月中旬〜5月中旬(日本の関東標準)。中〜晩生開花。花は白色、釣鐘状、約1cm。
- 収穫期: 中晩生〜晩生(mid-late to late season)。米国南東部:6月後半〜7月の晩生〜最晩生帯/日本(関東標準):7月下旬〜9月上旬。資料によっては8月上旬〜8月下旬を中心に「シーズン最終盤を彩る最晩成品種」と位置付けるものもあり。
- 低温要求量: 約 400〜500時間(45°F=7.2°C 以下)。多くの資料で 500時間 が中心値として示される。暖地適応性が高い。
- 収量: 中程度(moderate)。豊産性は「普通」とされ、Tifblue等に比べると収量は劣る。結実が不安定(inconsistent bearing)という商業上の弱点が複数の米国資料で指摘される。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒〜大粒(medium to large)。直径約 15〜19 mm。資料により「small and light blue」「medium-large」と評価が割れる。
- 果皮色: 明るい青色(light blue)。完熟時に赤みを帯びた青色(reddish blue blush)を呈する点が特徴的。一部資料では「濃い青紫色」「深い青」とも。
- 果肉: 硬く(firm)、引き締まった果肉質
- 果梗痕(スカー): 小さく乾いた良好なスカー(dry stem scar)
- 食味(濃厚な甘味): ラビットアイ系の中でも卓越した甘味を持ち、糖度は平均12〜15.7度と高い。「完熟前から甘くなる」と評される。
- 食味(酸味): 低酸(酸味は弱い、★★/5評価)
- 食味(香り): 「ラビットアイ系で最高の香り」「マスカット的風味」「フルーティで華やか」と評価される。
- 食味(総合): 「最高に甘く美味しい生食品種」「ラビットアイ系で最高峰の食味」とする日本国内評価が多数。
- 裂果性: 特記情報は不明。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性ゾーン: USDA Zone 7〜9(資料により 6b〜9b、または 8〜10)。ラビットアイ系として暖地適応型。
- 耐暑性: 強い(暖地適応性高い)
- 耐乾性: 一般的なラビットアイ系並み。良好。
- さび病(blueberry rust, Thekopsora minima)に弱い: 米国(特にジョージア州)で重大な問題となり、商業生産から外された主要因。
- 日本では米国ほど深刻ではないとの観察報告あり。
- 土壌pHが5を僅かに超えるとショック症状を起こすとの観察あり(pH感受性)。
推奨栽培地
- 米国: ジョージア州、フロリダ州北部などZone 7〜9の南東部暖地。ただしさび病問題により商業栽培は減少。
- 日本: 関東以南の太平洋側、東海、近畿、中国、四国、九州など暖地〜温暖地。一部資料は東北〜九州まで植栽可能とする。
- 寒冷地(東北北部・北海道)には不向き。
受粉相性
- 自家結実性: 弱い(partially self-fertile)。実用上は他家受粉必須。
- 推奨受粉樹: 同系統(ラビットアイ系)の中〜晩生品種。'Brightwell'、'Powderblue'、'Tifblue'、'Climax'、'Ochlockonee'、'Chaucer'
- 注:ハイブッシュ系とは倍数性・開花期が異なるため受粉樹として不適。
商業利用状況
- 1969年の発表以降、ラビットアイ系の食味重視タイプとして一定の評価を獲得。
- しかし以下の理由で米国では商業生産から外された: (1) さび病(leaf rust)への高感受性 (2) 結実の不安定性(inconsistent bearing) (3) 果実が小〜中粒で大粒志向の現代市場と合致しない
- 現在、米国では家庭果樹・小規模農園・観光農園向け品種として流通。「外観は綺麗だが安定生産しない」と評価される。
- 一方、果実の食味(甘味・香り)の卓越性から育種素材としての価値が極めて高く、'Pink Lemonade' の親として歴史に名を残した。
Pink Lemonadeへの遺伝寄与(特記)
Delite最大の歴史的貢献は、観賞・果実兼用のピンク果ブルーベリー品種 'Pink Lemonade' の父本(雄親、pollen parent)となったことである。
交配の詳細
- 交配年: 1991年
- 育成者: Mark K. Ehlenfeldt(USDA-ARS、ニュージャージー州Chatsworth研究所、植物遺伝学者)
- 交配組合せ: NJ 89-158-1(♀)× Delite(♂、V. ashei)
- 選抜: 1996年に実生から選抜され、系統名 ARS 96-138 を付与
- 西海岸評価: Chad E. Finn(USDA-ARS Corvallis, Oregon)が西海岸でも評価
- 正式リリース: 2005年(実生選抜から9年後)
- 商業名命名: 2007年に'Pink Lemonade'と命名、同年Far West Horticultural Showで「best new shrub」受賞
Pink Lemonadeのゲノム構成と Delite の役割
- Pink Lemonadeは六倍体(hexaploid)であり、半分が V. ashei Reade(ラビットアイ)= Delite由来、もう半分が合成的に作出された六倍体ハイブッシュ型生殖質(NJ 89-158-1経由)から構成される。
- 母本 NJ 89-158-1 は Nicholi Vorsa(Rutgers大学)作出の三倍体間交雑(NJ 856-1 × NJ 859-1)由来。
- NJ 856-1:G-434('Pink Champagne'の同胞実生)× NJ 85-CS(白果実生選抜)
- NJ 859-1:V. darrowi × 'Rancocas'
Delite が Pink Lemonade に伝えた形質
- 暖地適応性とラビットアイの強健性: V. ashei由来の暑さ・乾燥耐性、土壌適応性
- 強い甘味・低酸の食味形質: Pink Lemonadeの「sweet and flowery(甘く花のような)」風味の基盤。Delite自体が「ラビットアイ最高峰の甘味・香り」と評される品種であることが選定理由と推定される。
- 晩生性・耐病性: Pink Lemonadeはmid-late〜late season成熟で、ミイラ果病(Monilinia vaccinii-corymbosi)の枯死期に対し中程度の抵抗性を示す。これは Delite 由来のラビットアイ的耐病性が寄与したと考えられる。
- 六倍体の倍数性: V. ashei は六倍体であり、合成六倍体ハイブッシュ系(NJ 89-158-1)との交配で安定した六倍体子孫を得る上で必須の貢献。種間交雑育種における橋渡し役として機能。
- 果皮色変異の表現基盤: Pink Lemonadeの「ピンク果」はアントシアニン生合成変異によるが、母本側(G-434経由でPink Champagne同胞)からも色形質が導入されており、Deliteは色そのものよりも食味・適応性面の貢献が中心。
育種史的意義
- Delite は単独の商業品種としては衰退したが、ラビットアイ × ハイブッシュ間の六倍体橋渡し素材として育種史に名を残した。
- 'Pink Lemonade' 以外にも、USDA-ARSのEhlenfeldt系統('Nocturne'など含む種間交雑育種ライン)の遺伝資源として活用された可能性が言及されるが、具体的な品種名での寄与は不明。
日本での状況
- 国内導入: 戦後〜1970年代以降のラビットアイ系導入波で日本にも入り、観光農園・家庭園芸を中心に普及。
- 流通状況: ラビットアイ系の中で「食味最高峰」「最晩成」「香り抜群」のニッチ品種として根強い人気。観光ブルーベリー園では収穫シーズン最終盤の主役品種として位置付けられる。
- 入手性: 苗木は園芸店・ネット通販(花ひろばオンライン、楽天、Yahoo!ショッピング等)で入手可能。1〜2年生挿し木苗、3.5号ロングポット苗が主流。
- 栽培評価: 樹勢が強く育てやすい初心者向け品種(★★★★/5)/自家不和合のため受粉樹(ラビットアイ別品種)必須/米国でのさび病問題は日本では深刻化しておらず、家庭果樹として高評価/完熟果は「最高に甘い」と評され、観光農園のリピーター集客の目玉となる例もある
育成者注釈・特記事項
- Delite は1969年発表のラビットアイ系古典品種であり、Tifton育種プログラム(W.T. Brightwell主導)の中期成果。
- 商業生産では さび病感受性・結実不安定 という弱点により Tifblue や Brightwell に劣るが、食味(特に甘味と香り)はラビットアイ系最上位 と国内外で評価される。
- 育種史的には Pink Lemonade(2005/2007年)の父本 として最も重要な貢献を果たした。これによりDeliteは「観賞ブルーベリー」「ピンク果ブルーベリー」という新ジャンル誕生の遺伝的基盤となった。
- 完熟時に果皮が「赤みを帯びた青色(reddish blue blush)」を呈する形質は、Pink Lemonadeのピンク果形質発現に間接的影響を与えた可能性が考えられる(ただしPink Lemonadeのピンク色は主にアントシアニン経路の変異による)。
- 日本では商業生産より家庭果樹・観光農園向けで定評があり、シーズン最終盤の最晩成・高糖度品種として固有のポジションを保持する。
参考情報源
- USDA ARS – Pink Lemonade (1) 公式品種解説
- USDA AgResearch Magazine – Pink Lemonade Blueberries (2012年9月)
- Ehlenfeldt and Finn – G-435 and ARS 96-138, Pink-fruited Blueberry Selections (HortScience, 2007)
- Backyard Gardener – Vaccinium ashei 'Delite' Rabbiteye Blueberry
- Just Fruits and Exotics – Delite Blueberry Bush "Rabbiteye"
- Wilson Bros Gardens – Delite Rabbiteye Blueberry
- CooksInfo – Delite Blueberries
- Finch Blueberry Nursery – Rabbiteye Type
- Fruit Growers News – New varieties diversify blueberry offerings
- MDPI Agronomy – Anthocyanin-Related Genes in Pink Lemonade
- ブルーベリーファームおかざき – デライト
- ツクベリーやさと – デライト
- さわやかブルーベリーファーム市原 – 最高に甘いブルーベリー「デライト」
- 花ひろばオンライン – デライト ラビットアイ系
- グリーンプラザ山長(Yahoo!)– ブルーベリー ディライト
- UGA – W.T. Brightwell(育種家紹介)