ジューン June
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 親系譜: 394Y × Rubel(ルーベル)
- 394Y は Brooks(ブルックス、野生ハイブッシュ選抜)× Russell(ラッセル、野生ローブッシュ V. angustifolium 選抜) から得られた一次雑種。すなわち June は 394Y の F1 を世代進めた選抜系統で、遺伝構成上は 3/4 ハイブッシュ+1/4 ローブッシュとなる。
- Rubel は1909〜1912年にニュージャージーの野生集団から Elizabeth C. White と Coville が選抜した代表的な野生ハイブッシュ系統で、現在も栽培される現存最古級の品種。
- 交配年: 1919年(春、Whitesbog 圃場)。
- 育成者: Frederick V. Coville が USDA・Whitesbog(Browns Mills, NJ)における Elizabeth Coleman White との共同育種事業の中で選抜・命名。
- 品種名の由来: ニュージャージー州における早期成熟("Named for its early ripening in New Jersey")に因む。すなわち6月(June)に収穫が始まる極早生性を表象する命名。
- 特徴的な形態: 1/4 ローブッシュ血統を持つにもかかわらず、葉縁の鋸歯(serrate margin)はローブッシュ祖父の特徴を引き継いでおらず、典型的なハイブッシュ型の葉形状を示す(Coville記述)。
樹体特性
- 樹勢・樹姿: 中程度。直立性〜やや開張性のハイブッシュ樹形を示すと記述されるが、近代品種に比べると樹姿は均整を欠き、収量・形状の安定性は劣る(古典品種としての位置づけ)。
- 耐寒性: ノーザンハイブッシュ標準域。USDA ゾーン4〜7に対応すると見なされるが、近年品種ほどデータの裏付けは乏しい(詳細不明)。
- 観賞価値: 当時の記述では特筆事項なし。
結実特性(極早生)
- 収穫期: 極早生(Very Early)。Coville の同定記述では「Cabot より一般に早く熟す」とされ、当時のラインナップ中で最早生クラスに位置付けられた。
- 品種名「June」が示すとおり、原産地ニュージャージーで6月中の早期収穫が可能だった点が最大の特徴。
- 開花期: 早生群に含まれるが、具体的な日数や ℃ 積算温度による定量データは不明。
- 低温要求量(chill hours): 公的に発表された数値資料は不明。Coville の標準的なノーザンハイブッシュ系古典品種(800時間前後)に近いと推定されるが、断定的な記述は確認できず。
- 収量: 当時としては有望だったが、後継品種(Weymouth、Earliblue 等)の登場後は商業的価値が急速に低下し、現存栽培はほぼ皆無。
果実特性
- 果実サイズ: 原木で 直径約 20 mm、商業圃場では時に 21 mm 超に達する記録あり。1920年代当時としては大粒級。
- 果皮色: 標準的な青色。果粉(ブルーム)の発現程度に関する詳細記述は不明。
- 食味: Coville の記述によれば「完熟時には甘く美味で、わずかな副酸味(subacidity)」を伴う。
- 加工適性・保存性: 古典品種で輸送・棚持ち性に関する近代的データは不明。当時としては鮮度低下が早めだった可能性が示唆される。
- 熟期の揃い: 詳細記述は不明だが、機械収穫前提の品種ではない(手摘み時代の選抜)。
現代品種への遺伝的寄与(Weymouth等)
June は自身の商業流通こそ短命だったが、子孫品種を介して現代の主要品種群の遺伝子プールに大きく貢献した。
1) Weymouth(ウェイマウス)の親
- 交配構成: June × Cabot(受粉実施 1928年)。
- 命名由来: ニュージャージー州 Hammonton と Mays Landing の間に位置する Weymouth クランベリー・ブルーベリープランテーション(1929年以降、USDAの試験地)に因む。
- 果実: 原木で 直径約 22 mm の大粒。早生品種として位置付けられたが、商業圃場での「極早性」は確証されていない、と Coville 当時に注記されている。
- Weymouth は20世紀中盤に多くの試験場・育種プログラムで早生親本として採用され、後世のEarliblue(Stanley × Weymouth)、Collins(Stanley × Weymouth)、Bluetta などの早生品種の礎となった。
2) Bluettaへの間接的寄与(系譜上の祖先として)
- Bluetta(USDA/Lawrence H. Mainland、Beltsville、1968年リリース)の親系譜は、複数資料で「Earliblue × North Sedgwick」由来の選抜と紹介される(一部資料では Coville × North Sedgwick とも)。
- Earliblue(Stanley × Weymouth, USDA・NJAES、1952年リリース)を経由して、June の遺伝子が Bluetta に祖先(grandparent / great-grandparent 相当)として継承されている。これにより Bluetta の極早生性の系譜上のルーツは June に辿ることができる。
3) Bluecropへの寄与(遺伝的影響の代表例)
- Bluecrop(USDA、1952年リリース)の構成: GM37(Jersey × Pioneer)× CU5(Stanley × June)。
- 世界で最も普及した商業品種の片親系統 CU5 の半分が June。すなわち June は Bluecrop の祖父母(1/4 寄与) に相当し、商業ブルーベリー産業全体への June の遺伝的影響は極めて大きい。
- 同様に Blueray(GM37 × CU5、1955年)にも 1/4 の寄与を持つ。
4) その他
- Rancocas(1926年リリース、Jersey × Pioneer 系の一系統)と同じく、Brooks × Russell系統(394Y)を共通祖先とし、初期 USDA 育種プログラムにおける重要な「躯幹(backbone)系統」の一つとして位置付けられる。
- 現代の早生・極早生・ノーザンハイブッシュ品種の系譜を辿ると、その多くが Weymouth・Earliblue を経由して June に行き着く。
日本での状況
- 日本国内での商業栽培、苗木流通、農林水産省品種登録などの記録は確認できず(不明)。
- June は1930年代の極早生古典品種であり、後継品種の Weymouth・Earliblue・Bluetta などに早々と置き換えられたため、日本に渡来・導入された記録もほぼ存在しない。
- ただし日本で広く栽培される Bluecrop、各地で導入実績のある Earliblue・Bluetta・Weymouth などを通じて、June の遺伝子は間接的に日本のブルーベリー産業にも継承されている。
参考情報源
- "Improving the Wild Blueberry"(Chatham Apples / Small Fruits NY 復刻アーカイブ。1937年前後の USDA 記述を再録)
- "Genetic diversity assessed by genotyping by sequencing (GBS) and for phenological traits in blueberry cultivars"(Pootakham et al. 2018, PLOS ONE; PMC 経由)
- Hancock & Draper, "Frederick V. Coville and the History of North American Highbush Blueberry Culture"(Taylor & Francis)
- USDA ARS Magazine, "Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library"(2011)
- USDA ARS, "Historic Collection at NAL Gives Insight into Blueberry's Domestication"(2011)
- USDA, "Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial"
- Italian Berry, "110 years of blueberry history: it all started with F. Coville and E. Coleman White"
- Frederick V. Coville Records on Blueberries(USDA NAL アーカイブ・原資料一覧)
- Rutgers NJAES "FS419: Selecting Blueberry Varieties for the Home Garden"
- Penn State Extension "Blueberry Variety Selection in the Home Fruit Planting"
- PickYourOwn.org "Blueberry Varieties - Characteristics, Ripening Order and More"