スタンレー Stanley
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴(Coville育種史)
- 交配親: Katharine(キャサリン、Pioneer の近縁実生)× Rubel(ルーベル、野生選抜株)
- 交配親の背景:
- Katharine: Coville の娘 Katharine Woodburn にちなんで命名された交配品種。1912年に Brooks との交配から得られた優良雑種群(Pioneer・Katharine)の一つ。
- Rubel: 1912年に Rube Leek(ルーブ・リーク)が選抜した野生株に由来する原種系古典品種で、現代に至るまで多くのハイブッシュ品種の基幹遺伝資源として用いられる。
- 命名の由来: コービルの長男 Stanley Coville にちなむ。当該実生は息子 Stanley が運営した New Lisbon(ニュージャージー州)のブルーベリー園で初めて「大果かつ多収」の実用性が示され、これが評価決定の契機となった。
- 位置付け: コービルが生前(1937年没)に発表した約15品種のうちの1つに数えられる、Coville 育種プログラムの中核的・初期銘柄。
樹体特性
- 樹勢: 強健で安定。古典品種ながら適応性が高い。
- 樹形: 直立性(upright)でコンパクトにまとまる。
- 樹高: 約1.0〜1.8 m(米国の流通情報では成熟樹で約 6 ft(約 1.8 m)×幅 3 ft(約 0.9 m))。日本の苗木情報では 1〜1.5 m 程度との記載。
- 紅葉: 秋に色づき、観賞性も高い。
- 耐寒性: 強く、USDA Zone 5a〜8b(資料により Zone 4b〜7 とも)に適応。
結実特性
- 開花期: 関東標準で4月中旬頃。小型の白〜淡桃色のベル型花(直径約1 cm)。
- 収穫期: 晩中生(late midseason)。米国(インディアナ州)では7月下旬〜8月初旬、日本(関東標準)では中生時期。
- 低温要求量(チルアワー): 不明(具体的時間数を明記する公的資料は確認できず/一般的にノーザンハイブッシュ系として 800 時間以上を必要とすると推定される)。
- 結実までの年数: 植え付け後1〜2年で結実が始まる。
- 収量: 成熟樹で年間 8〜12 ポンド(約 3.6〜5.4 kg)。コービル時代の評価では「息子の圃場で large yields of berries of large size を示した」と記録される。
- 自家結実性: 部分的に自家結実するが、自家結実性は弱め。他のノーザンハイブッシュ品種(Bluecrop、Blueray、Duke など)との混植・他家受粉で収量・果実品質が顕著に向上する。
果実特性
- 果実サイズ: 中〜大粒。原木の最初期記録では18 mm 弱、商業栽培下では 19〜20 mm を超え、最大で 21〜22 mm の事例も記録された(1937年公表記録)。現代基準では「中粒〜やや大粒」に相当。
- 果皮色: 明青色、ブルームに富む。
- 糖度: 平均 10〜12° Brix。
- 食味: 「sweet-subacid(甘味と適度な酸味の調和)」「especially delicious flavor」と記載され、コービル自身も「By many persons Stanley is considered the most delicious of all blueberries(多くの者がスタンレーを全ブルーベリーの中で最も美味と評する)」と評価。これが後の育種で味の供与親として重用された理由となる。
- 果皮: やや厚く、加工(焼き菓子)でも果皮が破裂しにくいとされる(古典品種特有の特徴)。
- 用途: 生食、ジャム、製菓・焼き菓子加工。
歴史的意義
- コービル育種の中核品種: F.V. Coville(USDA)による20世紀初頭の高ブッシュブルーベリー栽培化プロジェクトにおいて、選抜された早期銘柄群(Pioneer、Katharine、Rubel、Brooks、Stanley 等)を代表する一つ。
- 「最も美味」と評された供与親: Stanley は当時としては突出した食味(甘酸調和)を持つことが知られ、コービルおよび後継育種家(USDA/NJAES)が多くの交配で「フレーバー供与親」として組み合わせた。
- GM-37 との交配(1930年): GM-37(Jersey × Pioneer)は果実品質に優れたが「食味のみが欠点」と評価された USDA 選抜系統で、1930年に Stanley と交配されたことで「優れた食味」を導入。この交配の後代から1935〜36年に注目株が選抜され、後の主要品種群の基礎となった。
- コービル没後の継承: コービル没(1937年)後、後任の George M. Darrow らが交配・選抜を継承し、Stanley を親または祖先に持つ多数の品種が1940〜50年代に放出された。1942年時点で東部向け 18 品種のうち 14 品種がコービル選抜・育種に由来していた。
- 保存価値: 現在では商業生産規模はほとんどないが、米国の「Heirloom(古典・伝承)品種」専門ナーセリー(例:Backyard Berry Plants)が保存・流通させており、家庭園芸・遺伝資源保全の文脈で重要視される。
現代品種への遺伝的寄与
Stanley は Coville/USDA/NJAES 育種系譜の主要な「食味供与親・基幹親」であり、現代の主力品種の多くに祖先として組み込まれている。
- Earliblue(アーリーブルー、1952年放出):
- 系譜: Stanley × Weymouth
- Stanley が直接の親。米国・日本で広く栽培される代表的早生ノーザンハイブッシュ。
- Coville(コービル、1949年放出):
- 系譜: GM-37(Jersey × Pioneer)× Stanley(1930年交配)
- Stanley が直接の親。晩生大粒・酸味のあるデザート向け銘柄。
- Bluecrop(ブルークロップ、1934年交配・1941年放出、世界標準品種):
- 系譜: GM-37(Jersey × Pioneer)× CU-5(Stanley × June)
- Stanley は祖父母世代として遺伝寄与。
- Blueray(ブルーレイ):
- 系譜: (Jersey × Pioneer) × (Stanley × June)
- Bluecrop の姉妹実生。Stanley は祖父母世代。
- Berkeley(バークレイ、1949年放出):
- 系譜: Bluecrop の親4個体のうち 3 個体(Stanley、Jersey、Pioneer)を共有する近縁系。Stanley は祖先世代として遺伝寄与。
- Spartan(スパルタン、1977〜78年公表):
- 系譜: Earliblue × US 11-93
- Earliblue 経由で Stanley が祖父母世代に位置する。
- Razz(ラズ):
- 系譜: GM-37 × CU-5(Bluecrop の同胞)。Stanley は祖父母世代。
このように、Stanley は Earliblue・Coville の直接の親、Bluecrop・Blueray・Razz・Berkeley・Spartan 等の祖父母(ないし祖先) として遺伝寄与しており、20世紀後半〜21世紀の北部ハイブッシュ系商業品種の中核遺伝資源と位置付けられる。
商業利用状況
- 米国: 現在、Stanley を主力とする商業生産はほぼ皆無。後継品種(Bluecrop、Berkeley、Coville 等)が果実サイズ・収量・耐病性で優れるため、商業栽培の主役は譲った。
- 保存・流通: Backyard Berry Plants、Stark Bro's の "Heirloom Blueberry Collection" 等の専門ナーセリーで「歴史的・古典銘柄」として有機栽培苗が販売される。
- 用途の現状: 家庭園芸、Uピック農園、観光農園、遺伝資源保全コレクションが中心。古典品種特有の濃厚な風味を志向する小規模生産で評価される。
日本での状況
- 流通: 日本国内のブルーベリー苗木専門店(花ひろばオンライン/苗木部、苗木通販ナエ・ヤ、ITANSE、楽天市場系苗木店など)でノーザンハイブッシュ系として流通。
- 紹介の傾向: 「古くからあるブルーベリーで、現在の優良品種に通じる中実の早生種」「直立性で味も良好」と紹介される。日本の表記では作出年を「1930年」、交配親を「キャサリン×ルーベル」と記す資料が一般的。
- 位置付け: 中粒・直立性・酸味と甘味の調和という古典銘柄らしい特徴から、家庭園芸・観光農園での「歴史的銘柄コレクション」の一品種として導入されることが多い。商業大規模生産での採用例は確認できない。
- 栽培適地: 東北〜関東以北の冷涼地が主。耐寒性が強く、晩霜害も比較的受けにくい開花期。
育成者注釈・特記事項
- 命名の由来: 育成者 F.V. コービルの長男 Stanley Coville にちなむ。コービル一族にちなんだ Coville 育種品種群(Pioneer、Katharine、Stanley、Rubel〔Rube Leek 由来〕、Coville など)の代表例。
- 「1921年選抜/1930年頃公表」の差異: 選抜年は1921年(Coville の交配記録)、命名・正式公表は1930年頃〜1937年公表記録の中で広く流布したと整理される(出典により表記揺れあり)。
- 歴史的意義の核心: 「フレーバーの供与親」として後続の主力品種に決定的な遺伝寄与を果たし、20世紀ハイブッシュ商業品種の食味基準を底上げした。
参考情報源
- USDA ARS「Historic Collection at NAL Gives Insight into Blueberry's Domestication」
- USDA Agricultural Research Magazine「Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library」
- USDA Blog「Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial」
- National Agricultural Library Archives「Frederick Vernon Coville Records on Blueberries」
- Chatham Apples「Improving the Wild Blueberry(1937年公表記録の再録)」
- Backyard Berry Plants「Stanley Heirloom Highbush Organic Blueberry Plant」
- Backyard Berry Plants「Heirloom Blueberry Plants(コレクション)」
- Stark Bro's「Heirloom Blueberry Plant Collection」
- Italian Berry「110 years of blueberry history: F. Coville and E. Coleman White」
- Rutgers Library「Coville's Serendipitous Association with Blueberries Leading to the Whitesbog Connection」
- Stark Bro's「Earliblue Blueberry Plant」
- Food Forest Nursery「Blueray Blueberry Plant」
- Stark Bro's「Bluecrop Blueberry Plant」
- Stark Bro's「Berkeley Blueberry Plant」
- Natlands Stoneleigh「Highbush Blueberry (Vaccinium corymbosum 'Coville')」
- Berries Unlimited「Patriot / Northern Highbush Blueberry(pedigree 関連)」
- 苗木通販ナエ・ヤ「スタンレー ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系の特徴と育て方」
- 花ひろばオンライン/苗木部「ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系 スタンレー」
- ITANSE「ブルーベリー スタンレー」
- ブルーベリーの全品種特徴一覧表
- ブルーベリーファームおかざき「日本一詳しいブルーベリー品種解説」