ウェイマス Weymouth
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 交配親: June × Cabot(両親ともに Frederick V. Coville が育成した極早生〜早生のノーザンハイブッシュ古典品種)。
- June 自身は 394Y(野生ハイブッシュ Brooks × 野生ローブッシュ Russell の F1 hybrid)由来の系統で、ハイブッシュ/ローブッシュ両種の血を引く。Weymouth はこの B-1(Brooks)系と R-1(Russell)系の遺伝を受け継いでいる。
- もう一方の親 Cabot(1920年に Pioneer・Katharine と共に最初期に発表された USDA Coville 品種群の一つ)からは中庸〜大粒・甘味の形質が導入されたと考えられる。
- 育成者: Frederick V. Coville 博士(USDA, Washington D.C.)。Coville は1906年から野生ブルーベリーの選抜・栽培化研究を始め、Whitesbog(NJ)の Elizabeth C. White 女史と協働してハイブッシュブルーベリー栽培を確立した「ハイブッシュブルーベリー育種の祖」。
- 品種名の由来: ニュージャージー州 Weymouth(Atlantic 郡内の果実試験圃場)に因む。1929年以降、USDA は同地のクランベリー&ブルーベリー圃場を用いて新規育成系統の評価を行っており、その地名を冠して命名された(USDA 1937 Yearbook 系資料・Chatham Apples 再録より)。
- 位置付け: Coville が現役で発表した最終世代に近い品種群(1936年発表の Dixi と同年代)。Coville が1936年末に退官した後も、彼の選抜系統からは14品種以上が後継者によって発表され、Weymouth はその転換期を象徴する極早生の標準品種として歴史に位置付けられる。
樹体特性
- 樹勢: 旺盛(vigorous)。古典品種としては樹勢が強く、若木期から伸びがよい。
- 樹形: 直立性(erect)〜やや半開張性。多分枝で樹冠は密。資料により「dense」「multi-branched upright」と記載。
- 樹高: 成木で約 1.2〜1.8 m(4〜6 ft 程度)。日本のナーセリー説明では1〜1.5 m級のコンパクト樹形と紹介される例もあり、家庭果樹・鉢栽培にも適する。
- 葉: 若葉は細長く、成熟するにつれ幅広になる。秋に赤〜黄色の良好な紅葉を示し、観賞性も高い。
- 耐病性: 一般に「比較的丈夫」「dense and disease resistant」と評されるが、後発品種(例:Croatan)と比較すると bud mite(芽ダニ)抵抗性は弱いことが文献で指摘されている(American Pomological Society Journal Vol.10 No.2)。
結実特性
- 開花期: 極早咲き(early blooming)。早期に多量の花を着け、ポリネーター(マルハナバチ等)の早春期の蜜源としても価値がある。
- 収穫期: 極早生(Very Early)。
- 米国本土(NJ・NC など)では 6月下旬〜7月上旬("early August" と記す UK 系資料もあるが、英国の気候に基づく表記)。
- 日本では一般に 5月下旬〜6月中旬頃に成熟する極早生として位置付けられる(国内ナーセリー説明より)。
- 発表当時から長らく「最も収穫が早いノーザンハイブッシュ品種」としての地位を保ち続けた。
- 低温要求量(Chill hours): 約 800〜1,000時間(7.2℃以下)。典型的な高 chill のノーザンハイブッシュ。
- 収量: 旺盛で多収(high-yielding)と評価されるが、後発品種に比べると一粒当たりの大きさ・果房の均一性で劣る。家庭園芸・地場直販向きで、長距離輸送商業生産には不向きとする見解が多い。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒(直径 14〜18 mm 程度)。Coville の原木は最大22 mm(約7/8 inch)に達する個体も記録されたが、後代では中粒〜中大粒として安定。
- 果皮色: 濃青色(dark blue)。果粉(ブルーム)はやや少なめでつやのある濃色を呈する。
- 糖度・酸度: 完熟初期は酸味が穏やかで甘味豊富。糖度は概ね 10〜13°Brix 程度(国内資料)。
- 食味: 「sweet, subacid, and delicious when first picked」(Chatham Apples 1937年収載 USDA 記述)。完熟直後の風味は秀逸だが、過熟になると急速に粉質化(mealy)し、風味が抜けるという弱点がある。これは Weymouth の最大の特徴的弱点として、ほぼ全ての歴史資料で繰り返し指摘される。
- 保存性・輸送性: 低い。鮮度劣化が早く、市場流通向けには未熟果として早摘みされることが多い。商業大規模栽培には不向きとされる主因。
- 用途: 生食・自家用ジャム・ピューレ・冷凍。鮮度が良ければデザート用としても秀逸。
耐寒性・耐暑性・推奨栽培地
- USDA Hardiness Zone: 3〜7(cold-hardy heritage variety と評される)。極めて高い耐寒性を持ち、寒冷地での栽培実績が豊富。
- AHS Heat Zone: 2〜8(Backyard Gardener 記載)。耐暑性は中庸で、南部高温地(南九州・沖縄、米国南東部低地)には不向き。
- 推奨栽培地:
- 米国: ニュージャージー州、ニューイングランド地方、五大湖周辺、ノースカロライナ州山間部など寒冷〜中温帯。
- 欧州: 英国・オランダ・北部ドイツなどで heritage cultivar として栽培。
- 日本: 北海道〜東北・北関東・中部山間部・中国/四国/九州の高地。冬季低温が確実に確保される地域。
- 栽培適応: 強健で家庭果樹・PYO(摘み取り園)・heirloom コレクション向き。
受粉相性(自家結実性)
- 自家結実性: あり(self-fertile)とされるが、結実率・果実サイズ向上のため他品種との混植が強く推奨される。
- 推奨受粉樹: 開花期が重なる早生〜中早生のノーザンハイブッシュ品種。
- 国内ナーセリーでは Jersey、Earliblue、Legacy、Nui、Bluecrop などが推奨例として挙げられている。
- 古典品種同士では Cabot、June、Rancocas、Stanley、Rubel などとも近接した開花期で良好。
歴史的意義
- USDA Coville 育種プログラム後期の代表品種:Coville が公的キャリア最末期(1936年)に発表した品種群の一つで、彼が確立した「野生 V. corymbosum × V. angustifolium 由来低木種の交雑育種法」の成果が結実した最終世代。
- 長らく「最も早生」の標準:1936年の発表以降、半世紀以上にわたって商業ノーザンハイブッシュの中で earliest-ripening cultivar の代表として位置付けられた。Earliblue(1952)が登場するまで唯一無二の極早生品種であり、その後も heirloom/早生極早生比較の基準系統として参照され続けた。
- Whitesbog/NJ ブルーベリー産業の発展に貢献:NJ Atlantic 郡 Weymouth 圃場を冠することで、USDA × NJ 試験ネットワークの存在を象徴する歴史的アイコンとなった。
- 創始者効果(founder effect):分子遺伝学的研究(Vaccinium SSR 多様性解析等)でも、Weymouth は現代ノーザンハイブッシュ集団に対し顕著な創始者効果を持つ系統群の一つとして報告されている。
現代品種への遺伝的寄与
Weymouth は Coville の早生品種群の中でも特に多く後代品種の親に用いられ、現代ノーザンハイブッシュ・サザンハイブッシュ双方に祖先として広く血を残している。
- Earliblue(1952年, USDA/NJAES発表): Stanley × Weymouth。Weymouth に代わって長らく早生標準品種となり、現代も heirloom/家庭園芸で人気。
- Croatan(1955年, North Carolina AES/USDA発表): Weymouth × F-6(Coville による交配)。ノースカロライナ州の主力初期品種であり、機械収穫適性と早生性を兼備。
- Angola/Wolcott/Murphy など、ノースカロライナ州 Coastal Plain 向けの一連の早生品種でも比較対象・近縁系統として位置付けられる。
- Rancocas、June、Weymouth は同じ 394Y 由来で兄弟関係にあたり、これら3品種は 20世紀中盤の北米ハイブッシュ早生群の祖先プールを形成した。
- 現代の主要早生品種である Duke、Spartan、Reka、Bluetta などにも、世代をたどると Weymouth/June/Cabot 系の血が含まれる例が多い。
商業利用状況
- 1930年代後半〜1950年代にかけて、米国東海岸(NJ・MA・NC など)で主要な極早生商業品種として広く栽培された。
- 1950年代以降、後継のEarliblue・Bluetta・Duke 等のより大粒・日持ちの良い品種に置換され、現代では商業大規模生産からはほぼ姿を消している(NHB heritage decline cultivar に分類)。
- 現在の主用途は次の通り:
- PYO(U-pick)果樹園、家庭園芸、heirloom/heritage コレクション:完熟採りの優れた風味と紅葉観賞性が高く評価される。
- 早生ポリネーション・受粉樹:早春の蜜源として有用。
- 育種素材:早生形質・耐寒性・古典遺伝子源として、現在も育種プログラムで参照されることがある。
日本での状況
- 流通: 国内大手ブルーベリー苗木専門店(花ひろば/苗木部、Berry's Life、ブルーベリーハウス系列の品種一覧等)で 「ウェイマウス」「ウェイマス」 の名で流通実績あり。在庫は限定的で、heirloom/古典品種コレクション向けに販売される傾向。
- 入手性: 大手ホームセンター流通は少なく、専門ナーセリーの通販/会員向け販売が中心。価格帯は2年生苗(5号鉢相当)で 2,000円前後(花ひろば実績)。
- 国内栽培評価:
- 極早生 として5月下旬〜6月中旬の収穫が可能で、関東以北・標高地・寒冷地での家庭栽培に適する。
- 甘味豊富で酸味おとなしいが、過熟による粉質化が早いため完熟採りでの早期消費が前提。鮮度落ちの早さから市販流通は限定的。
- ノーザンハイブッシュ系品種一覧表(複数の国内農園・解説サイト)でも「古典・極早生・甘味型」として掲載されることが多く、愛好家・heirloom 嗜好の家庭果樹栽培者向けの定番となっている。
- 栽培適応地: 北海道〜東北・関東甲信越・中部・中国/四国/九州の標高 500 m 以上山間部など、低温要求量が確実に満たされる地域。
参考情報源
- USDA Agricultural Research Service「Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library」
- USDA News Blog「Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial」
- USDA ARS News「Historic Collection at NAL Gives Insight into Blueberry's Domestication」
- National Agricultural Library Special Collections「Frederick Vernon Coville Records on Blueberries」
- "Frederick V. Coville and the History of North American Highbush Blueberry Culture"(Taylor & Francis)
- Rutgers University Libraries「Coville's Serendipitous Association with Blueberries Leading to the Whitesbog Connection」
- Improving the Wild Blueberry(USDA 1937 Yearbook 抜粋, Chatham Apples 再録)
- American Pomological Society Journal Vol.10 No.2「The Croatan Blueberry」(Weymouth × F-6 由来記述)
- Backyard Gardener「Vaccinium corymbosum (Weymouth Highbush Blueberry)」
- Raintree Nursery「Weymouth Blueberry」
- Chris Bowers & Sons「Weymouth Blueberry Bushes」
- Goldbarn Blueberries「Varieties」
- Pick Your Own「Blueberry Varieties」
- Penn State Extension「Blueberry Variety Selection in the Home Fruit Planting」
- Rutgers NJAES FS419「Selecting Blueberry Varieties for the Home Garden」
- italianberry「110 years of blueberry history: Frederick Coville and Elizabeth Coleman White」
- Atlantic Blueberry「Our History」
- Wikipedia 日本語版「ウェイマウス」
- 花ひろば/苗木部「ブルーベリー ノーザンハイブッシュ系 ウェイマウス」
- Berry's Life「ブルーベリーの品種特性 北部ハイブッシュブルーベリー」
- ブルーベリーハウス品種一覧(abc...)
- Heirloom Blueberry Plants(Heirloom Blues 公式 Facebook 投稿)