ビロキシ Biloxi
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 育成者(共同): J.M. Spiers、S.J. Stringer、A.D. Draper、C.L. Gupton(USDA-ARS)。
- 親系譜: 主に四倍体サザンハイブッシュ系統であり、`Fla. 4-B`(V. darrowii を含む系統)と `Sharpblue` の交配組合せに由来する。育成過程では2種の二倍体および1種の六倍体 Vaccinium 種に由来する遺伝子が導入され、米国南東部沿岸平野(Gulf Coast)への適応性が高められている。
- 来歴: USDA-ARSのポプラビル研究所(ミシシッピ州)は、1970年代以降、桐油産業崩壊後の代替作物としてメキシコ湾岸地域に適したブルーベリーの育成を進めており、Biloxiはその系譜の代表的な低・無休眠(low-chill)品種として1998年に発表された。地名「Biloxi」(ミシシッピ州沿岸都市)から命名された。
樹体特性
- 樹勢: 旺盛(vigorous)。
- 樹形: 直立性〜やや開張気味(upright〜spreading, bushy)。新梢の発生が良く、株立ちの整った樹形を形成する。
- 樹高: 成木で約1.5〜1.8 m(5〜6フィート)程度。
- 常緑性: 無休眠地帯では常緑のまま越冬可能。
- 栽培難度: サザンハイブッシュの中では病害抵抗性・樹勢の点で扱いやすく、初心者向きとされる。
結実特性
- 低温要求量(chill hours): 約150〜200時間(一部資料では100〜400時間と幅をもって記載)。150時間程度しか集積しない無〜極低休眠地でも安定して開花・結実する一方、150時間を大きく超える地域では収量が低下するとの報告がある。
- 開花期: 米国南部基準で2月下旬〜3月上旬の早期開花。Climax(ラビットアイ)とほぼ同時期の開花。
- 収穫期: 早生。米国南東部では5〜6月、ラビットアイの最早生品種より約14〜21日早く収穫が始まる。日本(暖地)では6月中旬〜下旬が中心。
- 自家結実性: 自家和合性あり(self-fertile / self-pollinating)。1樹でも結実するが、他のサザンハイブッシュ品種を混植することで果実肥大・収量・着果率が顕著に向上する。
- 収量: 成木で果実約3.6〜9 kg/株(8〜20ポンドのレンジで報告)。商業圃場では多収性で評価される。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒(medium)。果重 約1.0〜1.4 g、果径 17〜18 mm程度。
- 果皮色: 明るいブルー〜中程度のブルー(medium blue)、ブルームが豊富。
- 果肉・食味: 硬めでクリスプ、甘味と酸味のバランスが良好。日本国内データでは糖度14〜15.5度。果汁多く生食適性が高い。
- 果柄痕(picking scar): 良好(dry stem scar)で、商業出荷向き。
- 日持ち: 果実が硬く皮も丈夫で、輸送性・貯蔵性・棚持ちが優れる。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone 8〜10向け。一部資料では更に幅広いZoneでも栽培可能とされ、−18〜−12℃(0〜−10°F)程度までの耐寒性とする情報もあるが、サザンハイブッシュとしては低休眠タイプであり、寒冷地での晩霜による花芽被害には注意が必要。
- 耐暑性: 高温多湿環境への適応性が非常に高く、亜熱帯〜熱帯気候で活躍する代表品種。
- 病害抵抗性: 同系統の他品種に比べ比較的強健。ファイトフトラ根腐病(Phytophthora root rot)、Spotted Wing Drosophila(オウトウショウジョウバエ)に対し中程度の耐性/許容性が報告される。
- 罹病性: ミイラ病(mummy berry)、炭疽病(anthracnose fruit rot)、茎枯病・キャンカー(stem blight / canker)には感受性があり、これらの管理が重要。
推奨栽培地
- 米国: メキシコ湾岸地域(ミシシッピ、ルイジアナ、フロリダ北部〜中部、ジョージア南部、テキサス南東部)など低休眠地帯。
- メキシコ: 主力品種として大規模に栽培(2022年時点でメキシコ国内ブルーベリー作付面積の約70%を占めた歴史を持つ。近年は新品種への更新が進み、2024年前後には約23%まで縮小したとの報告)。
- 南米: ペルー、コロンビア等の低休眠ニーズの大規模商業圃場。
- アジア: 台湾・東南アジア(タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンなど)といった亜熱帯〜熱帯モンスーン気候地域での栽培実績あり。常緑栽培により周年〜複数回収穫が可能とされる。
- その他: スペイン南部、北アフリカなど地中海性気候の暖地でも栽培利用される。
受粉相性
- 自家結実性はあるものの、他のサザンハイブッシュ品種(例: Star、Emerald、Jewel、Misty、Sharpblue、O'Neal など)との混植によりミツバチ等の訪花を促し、結実率・果実サイズが向上することが推奨される。
- 同時期開花のサザンハイブッシュが望ましく、ラビットアイ系との交配パートナーとしては開花期は重なるものの、群(系統)が異なるため通常は同系統内での組合せが推奨される。
商業利用状況
- 生果用途: 主に生食向け(fresh market)。果実の硬さと貯蔵性から長距離輸送・輸出向きとされる。
- 加工用途: 日本では生食のほか、ジャム・菓子等にも利用される。
- 国際的位置付け: 1990年代後半〜2010年代にかけて、メキシコ・南米・南欧の輸出向けブルーベリー産業の基幹品種として急速に普及。「ロイヤリティ・フリー(公的品種)」であることが大規模植栽を後押しした。近年は専有品種(proprietary varieties)への置き換えが進行している。
日本での状況
- 流通状況: 日本国内のブルーベリー苗木流通において、サザンハイブッシュ系の主要品種の一つとして広く流通しており、家庭園芸向け苗および一部商業栽培で入手可能。
- 栽培適性: 暖地〜中間地のサザンハイブッシュ栽培に適し、関東以西〜九州・沖縄での栽培事例がある。沖縄・鹿児島南部・台湾など、低休眠ニーズの強い地域で特に評価が高い。
- 国内での評価: 樹勢が強く病害に比較的強いこと、収穫期が早く(6月中旬〜下旬)果実が硬く貯蔵性に優れることから、観光農園・直売向けに適性ありとの評価。
育成者注釈・特記事項
- ラビットアイ最早生品種より2〜3週間早く収穫期に入るため、米国南部では「早出し市場」狙いの戦略品種として位置付けられた。一方、低休眠ゆえに開花が早く、晩霜害リスクのある地域では霜対策が必須。
- 「Biloxi」はミシシッピ州沿岸の地名(メキシコ湾岸都市)に由来。USDA-ARS Poplarville研究所が放出した13品種のうちの一つ。
- 主要な制限要因として、休眠時間が150時間を超える地域では収量が安定しないこと、専有新品種に比べると果径・収量がやや見劣りする傾向があり、商業圃場では新品種への更新が進んでいる。
参考情報源
- ISHS Acta Horticulturae「'BILOXI' SOUTHERN HIGHBUSH BLUEBERRY」要旨
- USDA AgResearch Magazine「Blueberries in Biloxi」(2008年1月号)
- USDA-ARS Poplarville「Blueberry, Muscadine and Ornamental Plant Releases」
- Fall Creek Nursery「Biloxi Blueberries(商業栽培者向け品種解説)」
- Fall Creek Nursery Mexico「Regional Insights of Mexico」
- International Blueberry Organization「Current situation of blueberry production in Mexico」(2022年8月)
- USDA FAS GAIN Report「Blueberry Annual Voluntary - Mexico (MX2024-0003)」
- Mississippi State University Extension「What varieties of blueberries should be grown?」
- eXtension Foundation「Biloxi Blueberry Variety」
- One Green World「Biloxi Southern Highbush Blueberry」
- Hartmann's Plant Company「Biloxi Blueberry」
- みんなのブルーベリー「ビロキシー」
- 一般社団法人 日本ブルーベリー協会
- Talbott Nursery「Blueberry Vaccinium BILOXI(Zone・Chill情報)」