ケープフィア Cape Fear
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 交配組合せ: US75 × Patriot
- 母本(種子親): US75(USDA/NCSU 系の選抜系統。一部国内資料では「US-75(FLA4B × Bluecrop)」とする記述あり。NCSU 公式系図では系統名「US75」のみが示されており、US75 自身の親系譜の一次出典は本調査範囲では確認不能)
- 父本(花粉親): Patriot(パトリオット。1976年メイン大学(University of Maine)リリースのノーザンハイブッシュ系品種で、US3〔Michigan LB-1 × Dixi〕× Earliblue〔Weymouth × Stanley〕の交配。低木(lowbush, V. angustifolium)の血を含む耐寒性ハイブリッド)
- 来歴: ノースカロライナ州立大学のブルーベリー育種プログラム(J. R. Ballington 主導)から、1987年にサザンハイブッシュ品種として公表された。NCSU は同時期に O'Neal(1987年)を含む複数の SHB を発表しており、米南東部における SHB 商業化初期の代表的成果の一つに位置付けられる。
- 品種名の由来: ノースカロライナ州を貫流する大河 Cape Fear River(ケープ・フィア川)にちなむ命名と考えられる(NCSU 育成品種は地域地名にちなむ命名が多い)。一次出典での明示確認は本調査範囲では不明。
樹体特性
- 樹勢: 旺盛(vigorous)。生長が速く育てやすい品種。
- 樹形: 開張〜半直立(intermediate between spreading and semi-upright)。やや横張り傾向で、大きく育つと枝が広がる。
- 樹高: 露地植えで概ね 1.0〜2.0 m、米国の資料では成木で約 4 ft(約 1.2 m)に達するとされる。鉢植えでは約 1.5 m、樹幅 0.9 m 程度。
- 観賞性: 花・果実・紅葉の三季楽しめる観賞価値の高い品種として日本の苗業者が紹介。
結実特性
- 低温要求量(Chill hours): 約 500〜600 時間(< 7.2°C/45°F 以下)。複数の米国資料が一致して 500〜600h を示す。サザンハイブッシュとしてはやや高めで、より暖地向けの低温要求 200〜300h 系(Sharpblue, Misty 等)よりは寒冷耐性方向に寄る。
- 開花期: 早春(米国南部で2月下〜3月)。日本では3月下〜4月上旬と推定される(資料により幅あり)。
- 収穫期: 早生。
- 米国南ミシシッピ州では5月中旬。
- ノースカロライナ州沿岸部では概ね5月下旬〜6月上旬。
- 日本(関東以西の暖地)では概ね 6月〜7月 に収穫期が来る。日本の家庭栽培者の報告では6月に収穫されている。
- 収量: 旺盛な樹勢と豊産性が特徴。日本の苗業者の説明では成木で1株あたり概ね2〜3 kg。米国では「very productive」「prolific bearing」と評される。
- 自家結実性: 部分的自家結実性はあるが、他のサザンハイブッシュ品種を混植することで結実率と果実品質が向上する。
果実特性
- 果実サイズ: 大粒(large)。NCSU 公式記述で "Average Fruit Size: Large"。
- 果皮色: 明るい青色(light blue)。ブルームが乗り外観良好。
- 果肉硬度: 硬い(firm)が、長距離輸送に耐えるほどの硬さは持たない("firm, though not firm enough to survive long shipping" と評される)。
- 果梗痕(picking scar): 良好(good picking scar)。
- 食味: 適期収穫の完熟果は風味良好(good flavor)。糖度の参考値として国内栽培者の Brix 11.4 の測定例あり。
- 食味上の弱点: 樹上で過熟になると風味が劣化する("flavor becomes objectionable as the fruit remains on the bush")。適期収穫が品質維持の鍵。
- 裂果性: 一次出典での明確な裂果性評価は不明。
- 特記事項(軟果障害): NCSU 公式が "Susceptible to soft fruit disorder"(軟果障害/ソフトフルーツ障害に罹りやすい)と注記。原因不明の果実品質低下の一形態で、商業栽培の新規導入を停滞させた要因とされる。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone(具体的ゾーン値は本調査範囲では一次出典確認不可)。父本 Patriot がノーザンハイブッシュ系で耐寒性が強いため、サザンハイブッシュとしては比較的耐寒性が高めと推定されるが、明示的なゾーン記述は 不明。
- 耐暑性: 高い。「耐暑性高く育てやすい品種」として日本の苗業者が推奨。米南東部の温暖地で実績あり。
- 耐病性:
- Mummy berry(ミイラ果病): 抵抗性あり。Stretch and Ehlenfeldt(2000)の評価で「ハイブッシュ品種の中で常に抵抗性を示した」品種群(Northsky, Reka, Northblue, Cape Fear, Bluegold, Puru, Bluejay)に列挙。
- Soft fruit disorder(軟果障害): 罹りやすい(NCSU 公式記述)。原因の一次出典は本調査範囲では確認不能だが、果実が軟化し市販不能となる障害として商業栽培普及の障害となった。
- Phytophthora 根腐病、Botryosphaeria 茎枯病、Xylella 等への耐性データ: 本調査範囲では 不明。
推奨栽培地
- 米国: ノースカロライナ州沿岸部・南東部、バージニア州、ジョージア州北部、ミシシッピ州など、低温要求量 500h 級が満たせる米南東部全般。SHB の中でやや高めの低温要求量のため、フロリダ中部以南の極暖地よりは中緯度寄りの SHB 適地が中心。
- 日本: サザンハイブッシュ系として、関東以西の暖地〜温暖地に適する。低温要求量が 500〜600h と SHB 内では高めであるため、関東〜中部太平洋側、東海、近畿、中国、四国、九州北部で安定栽培が見込める。極暖地(沖縄等)よりも、中緯度の温暖地での生産性が安定すると推定。
受粉相性
- 自家結実性: 部分的にあり。単独でも結実するが、他家受粉により結実率・果実サイズ・収量が向上する。
- 推奨受粉樹: 同系統(サザンハイブッシュ)の別品種。
- O'Neal(オニール)
- Misty(ミスティ)
- Sharpblue(シャープブルー)
- Star(スター)等の同時期開花の SHB 品種
- 注:ノーザンハイブッシュやラビットアイ系との交配は開花期・低温要求量の差から推奨されない(同系統内が基本)。
- なお、米国南部でのラビットアイ品種 Tifblue の受粉相性に関連した記述として「Cape Fear が Tifblue にとって良好な花粉源となる」との記述が一部商業情報源にあるが、現実の倍数性差を考えると交配相性は限定的と思われ、一次学術出典での確認は 不明。
商業利用状況
- 1987年のリリース当初は早生・大粒・豊産性のサザンハイブッシュとして米南東部での導入が進んだ。
- しかしその後、本品種で 「以前は報告されていなかった果実軟化障害(soft fruit disorder)」が発現 し、果実の市販性を著しく損なう症状が認められた。これにより新規商業圃場の造成は停滞し、NCSU 公式ページでも "susceptible to soft fruit disorder" と明記されている。
- 結果として、米国の商業生産における主力品種としての地位を確立できず、現代の主力 SHB(O'Neal, New Hanover, Pinnacle 等の後発 NCSU 品種、および UF 系の Emerald, Jewel 等)と比べて市場シェアは限定的。
- 一方で ミイラ果病(mummy berry)への抵抗性が安定して認められる 点は本品種の長所であり、ハイブッシュ品種抵抗性比較研究で評価対象に取り上げられている。
- 家庭園芸・ピックユアオウン(PYO, 摘み取り園)向けには、大粒・観賞性・耐暑性の利点から現在も流通している。
日本での状況
- 国内導入: サザンハイブッシュ系の代表的早生品種の一つとして、国内でも以前から流通。「ケープフェアー」「ケープフィア」「ケープフィアー」と複数の表記がある。
- 流通状況: 国華園(engei.net)、グリーンデジコ等の通販系苗業者で、2年生挿し木苗(5号ポット、概ね1,540円前後)、3年生接ぎ木苗(概ね5,500円前後)が販売されており、家庭園芸用途で広く入手可能。
- 栽培評価(国内):
- 樹勢が旺盛で生長が速く、初心者にも育てやすい品種と評価される。
- 大粒・豊産性で家庭果樹として人気。
- 耐暑性が高く暖地向き。
- 観賞性(花・果実・紅葉)が高く、生垣・シンボルツリー的活用も提案される。
- 樹上での過熟による食味劣化に注意が必要で、適期収穫が品質維持の要点。
- 国内品種登録/商標: 本調査範囲では 不明(NCSU の公的品種として無特許で導入されたものと推定)。
育成者注釈・特記事項
- 育成者 Dr. James R. Ballington は NCSU の長年のブルーベリー育種主任で、Cape Fear のほか O'Neal、Reveille、New Hanover、Pamlico、Sampson、Lenoir 等のサザンハイブッシュおよび関連品種を育成。NCSU の SHB 育種プログラムは Cape Fear 当時から V. corymbosum × V. darrowi 由来の暖地適応性 SHB 系統作出を主軸とし、米南東部における SHB 商業生産の基礎を築いた。
- 品種としての位置付け: 1987年リリースの早生・大粒・観賞価値の高い SHB として家庭園芸〜小規模生産向けに支持されたが、軟果障害(soft fruit disorder)の発現により大規模商業生産では主流化せず、後発の NCSU・UF 系 SHB に置き換えられていった世代の品種。
- 最大の注意点: 樹上完熟期間が長くなると食味が劣化するため、適期収穫の徹底が重要。
- 遺伝的特徴: 父本 Patriot を介して V. angustifolium(lowbush)の血を含むため、同時代の他 SHB 品種と比べて耐寒性は相対的に高めと推定される。
- 混同注意: 同名の映画「ケープ・フィアー」(1991年版および1962年版)が存在するため、ウェブ検索時には品種情報と映画情報を区別する必要がある。
参考情報源
- NC State University Blueberry Genetics & Genomics Laboratory – Cape Fear
- NC State Extension – Growing Blueberries in the Home Garden
- Mississippi State University Extension – What varieties of blueberries should be grown?
- CooksInfo – Cape Fear Blueberries
- ATTRA – Blueberries: Organic Production(mummy berry 抵抗性記載)
- Italian Berry – The Legacy of Blueberry Breeding at NC State University
- Berries Unlimited – Patriot Blueberry(父本 Patriot の系譜参照)
- 国華園 engei.net – ケープフェアー 5号ポット
- グリーンデジコ – ケープフェアー 2年生挿し木苗
- グリーンデジコ – ケープフェアー 3年生接ぎ木苗
- ブルーベリーマニアックス – 品種別の特徴と観察 サザンハイブッシュ系
- GoodGDN – ブルーベリー(オニールとケープフェアの収穫記録)
- ブルーベリーファームおおた – ブルーベリー大図鑑