コンコード Concord
ノーザンハイブッシュ系
注意: 本品種は ブルーベリーの 'Concord'(Vaccinium corymbosum)であり、世界的に有名なアメリカブドウ品種「コンコード(Vitis labrusca 'Concord'、1849年マサチューセッツ州 Concord 育成)」とは別種・別品種である。両者はしばしば混同されるが、ブルーベリーの 'Concord' は USDA の Coville 育種プログラムから生まれた古典 NHB 品種で、果房が「Concord グレープのように一斉に成熟する」ことから命名された経緯がある(後述・歴史的意義参照)。
系譜・来歴
- 交配親: Brooks(高木性野生選抜・1908年 New Hampshire 州 Greenfield 近郊の Fred Brooks 農場で発見)× Rubel(野生選抜・1912年 New Jersey Pine Barrens で Rube Leek が発見、Elizabeth C. White が選抜)。Brooks × Rubel の F1(第一世代雑種)。
- 交配年: 1917年(chathamapples 1937 年論文で「a first-generation hybrid between the wild highbush blueberries Brooks and Rubel and came from a cross-pollination in 1917」と明記)。
- 育成者: USDA の Frederick V. Coville 博士。世界初の高木性ブルーベリー商業育種プログラムの中核人物で、自身の生前に15品種、死後さらに14品種が彼の交配に由来して公表された(合計29品種)。
- 公表時期: 出典により幅があるが、Coville が 1920 年代後半に発表した一連の Brooks 系交配品種群(Pioneer 1920、Cabot、Katharine、Rancocas、Jersey 1928 等)の中に含まれ、おおむね 1928 年前後に育成者によって Concord として命名・公表されたと位置付けられる。具体的な「公式リリース年」を一次情報で年単位まで断定する HTML 出典は本調査では確認できず、年については「Jersey と同世代の Coville 中期リリース」「1920年代後半~1930年代初頭」とする記述にとどまる。
- 命名由来: 「果房が一斉に熟して、Concord グレープの房のように見える」ことから Concord と命名された("so named because of its large clusters of berries, which, all ripe at the same time, resemble clusters of Concord grapes" — Improving the Wild Blueberry, 1937)。ブドウの Concord に肖った名称であり、ブドウとの直接の遺伝的関係はない。
- 親 Brooks は Coville 育種プログラム最初期の主要親本で、最初の15品種のうち13品種に親または祖先として関与している(Brooks 系譜の代表格)。Rubel は現在も商業栽培される野生由来の古典銘柄で、現代の多くの NHB 品種(Bluecrop, Berkeley 等)の遺伝的バックボーンを成す。
樹体特性
- 樹勢: 強い(vigorous)。
- 樹形: 直立性かつ開張型("vigorous, upright, and open")。枝は長く伸び、樹冠内部に光が入りやすい開張的な樹姿。
- 樹高: 不明(Concord 個別の記述は確認できず。一般的な Coville 期 NHB 品種としては成木 1.2〜1.8 m 程度と推定される)。
- 耐寒性: 木部および花芽(wood and buds)が低温に強く、冬季の凍害耐性が高いと評価されている。
結実特性
- 開花期: 不明(米国出典で具体的な月旬の記述は見当たらず)。Coville 中期 NHB として中期開花型と推定。
- 収穫期: 中期(midseason)。Pioneer とほぼ同時期に成熟する。
- 低温要求量(チルアワー): 不明(Concord 個別データなし)。NHB 古典銘柄として 800〜1,000 時間相当と推定される(一般的な NHB の値)。
- 結果習性: 果実は長い果梗を持ち、ゆるい房状(loose cluster)に垂れ下がる。長く保持しても品質が落ちず、房の大半が熟すまで樹上に保持できる点が特徴で、収穫の同時性を高め労働効率を上げる利点があった(命名由来でもある)。
- 収量: 「やや不安定(erratic)」と評価される報告がある。安定した多収型ではない点が現代品種に淘汰された一因。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒〜大粒。原木で果径最大 18 mm、圃場栽培下で時に 20 mm、まれに 21 mm に達する(1937 年文献の数値)。発表当時としては大粒の部類に入った。
- 果皮色: 明るい青色(light blue)。果粉(ブルーム)が乗る。
- 果実硬度: 硬い(firm)。
- 果梗痕(スカー): 小さく、乾いた痕(small dry scar)。生鮮流通における重要な品質指標で、当時の高評価ポイント。
- 食味: 完熟果は美味("delicious when fully ripe")。色づき直後(青くなったばかり)の果実は酸味が極めて強い(excessive acidity) ため、樹上で完熟させて収穫することが必要。中粒・酸味系。
- 房性: 大きな房をなし、房内の成熟がほぼ揃うのが他品種にない特徴。
- 用途: 生食、製菓、冷凍保存、Uピック向け。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 強い。木部および花芽が低温に強く、Coville 期品種としては寒冷地適応性に優れる部類。USDA Zone は一般的な NHB と同等(Zone 4〜7 程度と推定)。
- 耐病性: ミイラ病(mummy berry)およびその他病害に対し抵抗性があると報告されている。Coville 期の品種としては比較的丈夫な部類。
- 耐暑性: 不明(NHB 古典として温暖地適応性は低いと推定)。
推奨栽培地
- 米国北東部(New Jersey、New England、Michigan、Pennsylvania 等)の冷涼〜温帯地域。Coville 育種が想定した米国 NHB 主要産地。
- 現代の商業栽培ではほぼ採用されないが、家庭園芸・歴史的コレクション・Uピック農園での植栽が中心。
- 日本ではノーザンハイブッシュ系として東北〜関東以北の冷涼地が想定適地となる(一般論)。Concord 個別の日本国内栽培推奨情報は確認できず。
歴史的意義
- USDA 高木性ブルーベリー育種プログラム黎明期(1910年代後半〜1920年代)の中核品種の一つ。Coville が Brooks と Rubel という二つの最重要野生選抜系統を初めて交雑させた F1 群から生まれた品種で、商業ブルーベリー育種の出発点に位置する。
- 同世代に Pioneer(1920・初の公表雑種品種)、Cabot、Katharine、Rancocas、Jersey(1928)等が並ぶ。Concord はこれら 1920 年代後半の Coville 中期リリース群の一つとして、初期の商業栽培普及期(1920〜1930 年代)の品種ラインアップを構成した。
- 1916 年に White と Coville が初の商業収穫を行った直後の世代であり、米国における高木性ブルーベリー商業栽培の本格立ち上げ期を支えた銘柄群に属する。
- Coville の生前リリース 15 品種の一つに数えられる(具体年は資料間で揺れあり)。
- 「房が一斉に熟す」性質は当時の手摘み労働効率を高める育種目標の体現でもあり、命名は当時広く認知されていた Concord グレープの均一成熟性のイメージを利用したマーケティング上の妙でもあった。
現代品種への遺伝的寄与
- 親の Brooks は Coville 初期 15 品種のうち 13 品種の系譜に関与しており、Concord が直接親として用いられたかは個別品種ごとの確認が必要だが、Brooks×Rubel の F1 として Concord 自体が「現代 NHB の遺伝的礎」を構成する系統群の一員である。
- ただし Concord そのものを直接の親として明示された主要近代品種は本調査の HTML 出典範囲では確認できなかった(「Concord は親系譜として現代品種に頻出する」とする記述は見当たらない)。現代主要品種(Bluecrop, Duke, Draper 等)への直接寄与は限定的で、間接的(Brooks・Rubel 経由)な寄与が主と考えられる。
- 同世代の Rancocas、Jersey、Pioneer 等の方が現代品種の系譜に頻出する。Concord は「商業的成功は限定的だが歴史的価値の高い」古典銘柄に位置付けられる。
商業利用状況
- 現代の大規模商業栽培ではほぼ用いられない。果実サイズ・収量安定性・食味・出荷期適合性のいずれにおいても、Bluecrop(1952)、Duke(1986)、Draper(2004)等の後発品種に大きく劣るため。
- 米国の一部 Uピック農園・小規模園・家庭園芸では Earliblue、Duke、Stanley、Rancocas、Collins、Blueray、Bluecrop と並んで取り扱われる例がある(pickyourown.org の記載)。
- 主要市場での商業流通はほぼ消滅しており、「歴史的銘柄/コレクション品種」としての位置づけ。
日本での状況
- 日本のブルーベリー専門書・主要苗木流通サイト(花ひろば、苗木部、グリーンデゴ、One Green World、Stark Bro's 取扱店等)における Concord ブルーベリーの取り扱い情報は本調査では確認できなかった。
- 日本で「Concord」という名称が認知されているのは圧倒的にブドウ(Vitis labrusca 'Concord'、いわゆるアメリカブドウ・ラブルスカ系の代表品種で、巨峰やキャンベル・アーリーの遠縁親としても日本で著名)の方であり、ブルーベリーの Concord はほぼ無名。
- 日本のブルーベリー栽培者・愛好家の間で同名の Concord 品種が混同されて流通している事例は本調査では確認されず、日本国内での認知度・栽培実績は極めて低い。
- 学術的・歴史的関心から、ブルーベリー育種史の文脈で「Coville 期 Brooks×Rubel F1 群」として言及される程度。
補足: 他の "Concord" 名称との区別
- Concord グレープ(Vitis labrusca 'Concord'、1849年 Ephraim Wales Bull 育成、米国 Massachusetts 州 Concord)— 紫黒色の食用・ジュース・ジェリー用ブドウ。本ファイルの対象外。— https://en.wikipedia.org/wiki/Concord_grape
- Thomcord(Vitis vinifera × labrusca、USDA 育成のテーブルブドウ)— Concord 風味のシードレス品種。本ファイルの対象外。
- Concord, NH / Concord, MA(地名)— ブルーベリー栽培地・Uピック農園地域として登場するが、品種名ではない。
参考情報源
- USDA-ARS Historic Collection at NAL(Coville 記録ページ)
- USDA Blog "Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial"
- USDA Agricultural Research Magazine "Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library"(2011年5月)
- Frederick V. Coville and the History of North American Highbush Blueberry Culture(Ehlenfeldt, J. Amer. Pomol. Soc., Taylor & Francis 経由)
- "Improving the Wild Blueberry"(1937年論文・chathamapples アーカイブ:Concord の交配年・命名由来・果実サイズ・季節区分の主要一次出典)
- ItalianBerry "110 years of blueberry history"(Coville・White 110周年記事)
- Rutgers Coville's Serendipitous Association with Blueberries
- pickyourown.org "Blueberry Varieties - Characteristics, Ripening Order and More"(Concord を Uピック対象品種として列挙)
- Vaccinium corymbosum — Wikipedia
- Greg.app "Vaccinium corymbosum 'Concord' Concord Blueberry"(栽培情報・USDA Zone 3a-8a)
- ISHS "Celebrating the 100th anniversary of highbush blueberry domestication"
- 'Dunfee' Highbush Blueberry — Arnold Arboretum(Coville 期野生選抜の解説)