アイバンホー Ivanhoe
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 主要な交配親系譜: Z-13 × Stanley
- 母本: Z-13(NCSU 由来の選抜系統。詳細な祖父母交配は公開資料からは不明)
- 父本: Stanley(Frederick V. Coville による USDA 育成品種。1930年に発表され、当時「最も風味の優れた品種」と評価された早〜中生品種。Katharine × Rubel に近い系統と伝えられる)
- 育成者: E.B. Morrow(NCSU)を中心とする USDA/NCSU 共同チーム。一部資料では G.M. Darrow(USDA, Beltsville)が共同育成者として名前を挙げる。
- 公表機関: ノースカロライナ州農業試験場から1952年に発表され、USDA の高品質ハイブッシュ系統として米国東部に普及した。
- 品種名の由来: Sir Walter Scott の歴史小説『Ivanhoe(アイヴァンホー)』に由来するとされるが、正式な命名理由を記す一次資料は確認できず(出典明記なし、推定)。
- 倍数性: 4倍体(テトラプロイド、V. corymbosum 主体)。
- 注: 「Rancocas × Stanley」という親系譜の記述は一部の資料・概説で見られるが、NCSU Blueberry Genetics & Genomics Laboratory の公式ページでは母本を Z-13 と記載しており、本書では公式記載を優先した。「Rancocas × Stanley」説は出典が確認できず不明として扱う。
樹体特性
- 樹勢: 強い〜非常に強い("vigorous")。
- 樹形: 直立性("upright" / "erect")。やや高めにまとまり、密で丸みのある樹冠を形成する。
- 樹高: 成木で約 1.5〜2.4 m(5〜8 ft)、株張りも同程度。家庭果樹では約1.8 m前後で剪定管理されることが多い。
- 葉: 卵形、濃緑色、長さ約 9 cm(3.5 inch)。秋には鮮やかな紅葉("attractive shades of red")。
- 枝: 赤みを帯び、冬期の景観価値も高い。観賞性が認められ、エディブルランドスケープ用途にも推奨される。
結実特性
- 開花期: 春の中庸期(具体的日数は出典により差があり、日本国内での開花日数の公式記載は不明)。白色の小さな花を咲かせる。
- 収穫期: 出典により記述に幅がある。
- NCSU Blueberry Genetics & Genomics Laboratory・Mid City Nursery 等: 早生〜中生(Early〜Midseason)
- Rutgers FS419: Early(早生)
- 英国 Chris Bowers ナーセリー: Mid-season(8月中旬)
- 米国 Pretty Edible Plants: Very late season(晩生)
- 一般的には「早〜中生」とする評価が多数派。日本での収穫期目安は不明だが、親品種関係(Earliblue, Duke 等が早生)から推定すると6月下旬〜7月中旬程度が想定される(推定、要確認)。
- 低温要求量(chill hours): 公式の数値は不明。Ivanhoe を親に持つ Toro が 800〜1,000時間とされることから、Ivanhoe 自体も同等の 高低温要求量(800時間以上) と推定される(推定)。
- 収量: 中程度〜豊産。商業評価では「medium production」とする出典あり。家庭果樹では十分な収量が得られる。
果実特性
- 果実サイズ: 中〜大粒("medium" 〜 "very large")。最大で直径約 1.3 cm(½ inch)。出典により「中粒」「大粒」と表記が分かれる。
- 果皮色: 中程度の青色〜ライトブルー("medium blue")。果粉(ブルーム)の発生は良好で青みがかった灰白色を帯びる。
- 食味: 芳香性が高く(aromatic)、デザート品質に優れる("firm aromatic, high dessert quality")。
- 甘味は強く、わずかな酸味とのバランスが良い("strong sweet and slightly tart flavor")。
- Rutgers の評価では「Flavor: Excellent」と最上位の格付け。
- 果肉: 締まりがあり(firm)、シャリッとした食感(crisp)。
- 裂果耐性: 裂果しにくい("resists cracking well")。
- 保存性・輸送性: 商業流通には向かない("fruit doesn't ship well")とされ、家庭果樹・U-pick 向きとされる。
- 房性: ルーズクラスター(疎な房)で、収穫しやすい。
耐寒性・耐病性
- USDA耐寒性ゾーン: 5〜8(一部資料で 5a〜8b と表記)。
- 耐暑性: ノーザンハイブッシュとしては標準的。USDAゾーン7〜8の暖地でも栽培実績あり。
- 病害虫耐性:
- ステムキャンカー(茎枯病, stem canker)への抵抗性は無い("not stem canker resistant")。これが Ivanhoe の最大の弱点で、米国南東部での商業栽培制限の要因となっている。
- その他の病害虫については「概ね丈夫」「good disease resistance」と評する販売資料もあるが、具体的な抵抗性遺伝子・病害名の詳細は不明。
推奨栽培地
- USDA ゾーン5〜8 の冷涼〜温帯地域。
- 米国: ノースカロライナ州、ニュージャージー州、ミシガン州、ペンシルベニア州など、ステムキャンカー圧の低い地域。米国南部低地は不向き。
- 欧州: 英国・北西欧州で家庭果樹として流通。
- 日本: 推奨栽培地としての公的記載は不明。耐寒性ゾーンから推定すると北海道〜本州中部の冷涼地、関西山間部などで適応可能(推定)。低温要求量が高いとみられるため南九州・沖縄では不向き。
受粉相性
- 自家結実性: あり(self-fertile)。単独植栽でも結実する。
- ただし他品種との交配により結実率・果実サイズ・収量が顕著に向上するため、ナーセリー各社は他品種との混植を強く推奨。
- 推奨受粉樹: 開花期が重なるノーザンハイブッシュ系の中〜中晩生品種(具体的な国内ナーセリー推奨樹リストは不明)。
商業利用状況
- 1950〜70年代の米国東部で家庭果樹・地域市場向け品種として一定の普及をみた。
- 現在は 「ヘリテージ品種・希少品種(older heritage variety, hard to find)」 と位置付けられ、大規模商業栽培ではほぼ用いられていない。
- 理由: 機械収穫適性が低い、長距離輸送に向かない、ステムキャンカー抵抗性が無いことなど。
- 用途: 家庭果樹、U-pick 農園、生食用、冷凍保存用に好まれる。
- 育種素材としては極めて重要な親系統であり、後述の通り後代に Toro・Duke など主要商業品種を輩出している("important parent" と NCSU が明記)。
後代品種への遺伝的寄与
Ivanhoe は USDA/NJAES/NCSU の高品質×高収量育種ラインの交配親として広く活用された。代表的な後代品種は以下の通り。
- Toro(USDA-ARS/NJAES、1987年リリース、A.D. Draper ら育成)
- 親系譜: Earliblue × Ivanhoe
- Ivanhoe から大粒・芳香性・裂果耐性を受け継ぐ。
- Duke(USDA-ARS/NJAES、1987年リリース、A.D. Draper ら育成)
- 親系譜: (Ivanhoe × Earliblue) × 192-8(G-100 × 192-8)
- 母方の片親 G-100 が Ivanhoe × Earliblue であり、Ivanhoe の高品質形質と Earliblue の早生性を統合。Duke は世界的に最も成功した早生品種の一つに発展した。
- その他、Duke を介した間接的後代として Draper(Duke × G751) など、Ivanhoe の遺伝形質はノーザンハイブッシュ主要品種群に広範に伝播している。
- 結果として、Ivanhoe は商業栽培こそ縮小したものの、現代ノーザンハイブッシュ育種パイプラインの基幹的祖先品種として位置付けられる。
日本での状況
- 国内流通: 日本国内の主要ブルーベリーナーセリー(井戸園芸ブルーベリーカントリー、オーシャン貿易、ブルーベリーとよあけ、ホームセンター苗木コーナー等)における Ivanhoe の取扱記録は今回の調査では確認できず/不明。
- 商業栽培実績: 国内の商業栽培情報は不明。
- 公的試験: 北海道農業試験場が1951年に米国産ノーザンハイブッシュを導入したのを皮切りに各種試験が行われてきたが、Ivanhoe が国内試験品種に含まれていたかは公開情報からは不明。
- 位置付け: 日本ブルーベリー協会等の主要品種一覧でも紹介例が乏しく、国内では希少品種・コレクション目的の入手対象と位置付けられる。Ivanhoe を親に持つ Toro・Duke は国内で流通しているため、Ivanhoe の遺伝形質自体は間接的に日本の栽培シーンへ伝わっている。
参考情報源
- NCSU Blueberry Genetics & Genomics Laboratory「Ivanhoe」公式ページ
- Missouri Botanical Garden「Vaccinium corymbosum 'Ivanhoe'」
- Rutgers NJAES FS419「Selecting Blueberry Varieties for the Home Garden」
- Mid City Nursery「Blueberries」
- Pretty Edible Plants「Ivanhoe, Late Season, Highbush Blueberry」
- Plant Lust「Ivanhoe Blueberry」
- CooksInfo「Ivanhoe Blueberries」
- Chris Bowers & Sons(英国ナーセリー)「Ivanhoe Blueberry」
- Garden.org「Highbush Blueberry 'Ivanhoe'」
- St. Lawrence Nurseries「Duke Blueberry(Ivanhoe を親に持つ後代品種)」
- Raintree Nursery「Toro Blueberry(Ivanhoe を親に持つ後代品種)」
- Fall Creek Farm and Nursery 特許文献「Blueberry plant named 'ZF06-079'」(Duke 系譜の参考)
- USDA Plants Database「Highbush Blueberry」(種一般情報)
- Genome Database for Vaccinium(GDV、品種データベース)