エメラルド Emerald
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 育成者: Paul M. Lyrene 博士(フロリダ大学園芸科学部)
- 交配組合せ: FL91-69 ×(種子親)× NC1528(花粉親)。1991年3月、フロリダ大学ゲインズビル校の温室で交配。両親ともいずれも未公表のフロリダ州ブレーディングプログラム由来の選抜系統。
- 選抜コード: FL 95-209a
- 遺伝的背景: V. corymbosum を主体とし、低温要求性を低下させるために V. darrowi 由来の遺伝子を組み込んだ複雑な系譜の四倍体(2N=4X=48)。
- 公表: 1999年に University of Florida から正式公表。HortScience 誌の品種記載論文(2008年, Vol. 43, No. 5, p.1606-1607, Lyrene)にて詳細記載。
樹体特性
- 樹勢は非常に旺盛で、若木の段階から早く立ち上がる。
- 樹形は「直立〜やや開張型」(semi-upright to spreading)、太く半直立の主枝を持つ。
- 成木高さは約4〜5フィート(約1.2〜1.5 m、栽培条件によりそれ以上)。
- 葉量が多く、安定した光合成が見込める一方、結果枝が密集しやすく、果房が密になり摘み取り作業がやや煩雑になる傾向あり。
- フロリダ北部・中部では落葉栽培が標準(deciduous production system)で、シアナミド処理(hydrogen cyanamide)を併用すると萌芽・収穫がより揃う。
結実特性
- 開花期: 北中フロリダで1月中旬〜2月中旬(早生)。
- 収穫期: 4月中旬〜5月中旬(特許書類によれば、果実の80%が4月15日〜5月10日に成熟)。フロリダ州の早生〜中早生区分。
- 低温要求量: 約250時間程度(7℃以下)と紹介されることが多いが、特許書類および UF 公表資料では「100〜400時間」(7.2℃以下)の地域に適応するとされる低チル品種。
- 満開から成熟までの日数: 約60日。
- 収量: 高い。栽植5年目以降は1株あたり約8ポンド(約3.6 kg、特許書類)〜15.7ポンド(約7.1 kg、北中フロリダ実測)と報告。フロリダ中部では実質的に最も高収量の品種の一つに位置付けられている。
- 自家結実性: 中程度の自家結実性あり(self-fruitful)。自家受粉時の収量は他家受粉時のおよそ半分程度であり、確実な収量確保には他のサザンハイブッシュ品種との混植による他家受粉が推奨される。
果実特性
- 果実サイズ: 大粒。初期成熟果の平均果重は約2.9 g(特許書類)、シーズン平均は約2.4 g・果径18.4 mm(育種プログラム評価)。日本の生産者報告では「100円玉サイズ」級と表現されることもある。
- 果皮色: ミディアムブルー〜やや濃いブルー、ブルーム(果粉)は中程度。
- 果肉・食味: 硬さは高め(約195 g/mm 平均)、輸送・日持ちに優れる。糖度(Brix)平均11.3、フロリダ産は標高2,200 m を超えるペルーアンデス高地で13°超の例も報告。甘味と酸味のバランスが良く、フルーティーな風味。
- 果梗痕(picking scar): 小さく乾燥しており(small and dry)、機械収穫・パック詰めに適する。
- 果房: タイトに密集する傾向があり、同一果房内で熟期がやや不揃い。手収穫の効率に影響する場合がある。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone 7〜10 を栽培適地とし、おおむね-18℃(0°F)程度までの耐寒性。北部地域の厳冬には不向き。
- 耐暑性: 高温多湿のフロリダ気候下で育成されており、亜熱帯〜温帯南部の高温環境への適応性が高い。
- 根腐病(root rot)、茎枯病(stem blight)、枝枯病(cane canker)に対しては比較的問題が少ないとされる(フロリダ州生産者団体評価)。
- 一方で、ターゲットスポット(target spot, Corynespora cassiicola による)への感受性が指摘されている。
- 害虫被害は特に顕著なものは観察されていない。
推奨栽培地
- アメリカ: フロリダ州北部・中部(主要産地、長年もっとも広く植栽されたサザンハイブッシュの一つ)、カリフォルニア州など冬季温暖地。
- 中南米: チリ(北中部低チル地帯)、メキシコ、ペルー(特にアンデス高地2,200 m級でも商業栽培)、エクアドル、アルゼンチン。
- 欧州: スペイン南部(ウエルバ等の低チル地帯で中心品種の一つ)。
- その他: 冬季温暖な地中海性気候・亜熱帯地域全般。日本では暖地(東北南部以南〜沖縄)でサザンハイブッシュ栽培適地に該当。
受粉相性
- 中程度の自家結実性を持つが、果実肥大・収量確保のためには他のサザンハイブッシュ品種との混植が強く推奨される。
- 育種プログラムの評価では、開花期が重なる以下の品種が良好な受粉樹として挙げられる:
- 北中フロリダ:Magnus、Optimus
- フロリダ中部:Arcadia、Chickadee、Kestrel
- 一般的にはJewel(ジュエル)、Star、Windsor などのサザンハイブッシュ早生品種とも開花期が重なり受粉樹として機能する。
- 'Emerald' は他品種への花粉提供(pollen donor)としても優秀で、複数のサザンハイブッシュ品種で果実品質改善に寄与すると報告されている。
商業利用状況
- フロリダ州中部における基幹商業品種として2000年代〜2010年代に大規模植栽され、同州サザンハイブッシュ生産の中心的役割を担った。
- ペルーの大手輸出業者(例:Athos社)の主力品種として、高地栽培で輸出向け生産が行われ、上海など中国市場への初出荷例が報告されている。
- スペイン(特にウエルバ)、メキシコ、チリでも商業栽培品種として導入され、低チル地帯での早生〜中早生窓を埋める品種として広く利用。
- 大粒・硬果・小さい果梗痕により、長距離輸送・スーパーマーケット流通に適合する商業ベース型品種。
- ライセンスはFlorida Foundation Seed Producers, Inc.(FFSP)が管理。
日本での状況
- 日本国内ではサザンハイブッシュ系の中で観光農園・直売向けに少量導入されている事例が確認できる(例:愛知県岡崎市のブルーベリーファームおかざきで2020年から10株植栽、6月上旬〜下旬に収穫)。
- 大果・甘味・果実品質の高さから「La France(洋なし)に例えられるフルーティーな食味」と紹介され、観光農園での看板品種候補として位置付けられている報告あり。
- 一方、米国植物特許(USPP 12,165)対象品種であるため、商業流通苗の入手には正規ライセンス経路が必要。日本の一般園芸店・通販での流通量は限定的で、サンシャインブルー、オニール、ミスティ等に比べると一般消費者向け苗としての普及度は低い。
- 日本ブルーベリー協会等の解説でもサザンハイブッシュは東北南部以南が栽培適地とされており、Emeraldの低チル特性は日本の暖地に適合する。
育成者注釈・特記事項
- Paul M. Lyrene 博士はフロリダ大学のサザンハイブッシュ育種を1980年代以降牽引した第一人者であり、Emerald は同氏が手がけた商業上もっとも成功した低チル品種の一つ。
- 2000年代を通じてフロリダ中部のサザンハイブッシュ商業面積で最大級のシェアを占め、Jewel、Star、Windsor、Springhigh などとともに「フロリダ早生の標準品種」を構成した。
- 果実品質(大粒・硬さ・小スカー)の高さから、世界的な低チル地域でも基幹品種として導入され、サザンハイブッシュの国際的普及に大きく貢献した。
- 弱点としては (1) 果房がタイトで熟期が不揃い、(2) ターゲットスポットへの感受性、(3) 完熟前収穫では風味が乏しくなる傾向、が挙げられる。
- 米国特許 USPP 12,165 P2 は2021年(出願から20年)で満了とされ、現在はパブリックドメイン化が進んでいるが、各国でのライセンス契約状況は地域により異なるため注意が必要。
参考情報源
- USPP12165P2 - Blueberry plant called 'Emerald'(Google Patents)
- 'Emerald' Southern Highbush Blueberry(HortScience, 2008, Vol.43, No.5, p.1606-1607、Lyrene)
- HS1245: Southern Highbush Blueberry Cultivars from the University of Florida(UF/IFAS EDIS)
- Emerald | blueberry-breeding(UF Blueberry Breeding Program 公式)
- Florida Blueberry Growers Association - Varieties
- Emerald Blueberry Southern Highbush(One Green World)
- Vaccinium 'Emerald' Southern Highbush Blueberry(AgriStarts)
- Breeding blueberries for a changing global environment: a review(Frontiers in Plant Science, 2015)
- First Shipment of Athos Blueberries from Peru Arrives in Shanghai(Produce Report)
- ブルーベリーファームおかざき(日本での栽培事例:エメラルド)
- ハイブッシュブルーベリーについて(一般社団法人 日本ブルーベリー協会)