ファージング Farthing
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 育成者: Paul M. Lyrene 博士(フロリダ大学園芸科学部、サザンハイブッシュ育種の第一人者)
- 交配組合せ: 種子親 'FL 96-27'(フロリダ大学の未公開・非特許の選抜系統)× 花粉親 'Windsor'(米国植物特許 USPP 12,783)
- 交配時期: 1996年2月、フロリダ大学ゲインズビル校の温室で実施
- 初結実: 1998年春
- 選抜コード: FL 00-75
- 遺伝的背景: V. corymbosum を主体に、低温要求性を下げるため V. darrowi 由来の遺伝子を組み込んだ複雑な系譜の四倍体(サザンハイブッシュの一般的構成)。
- 公表: 2007年に University of Florida から正式リリース、Florida Foundation Seed Producers, Inc. が品種ライセンスを管理。
樹体特性
- 樹勢は強く、生育旺盛だが、極端に樹高が伸びるタイプではない('Star' よりも樹勢が強いと記載)。
- 樹形は「直立〜やや開張型」(between upright and spreading)で、密にまとまった樹冠を形成する。'Windsor' 譲りの「ややずんぐりした(squat)」樹形に、より分枝の多い性質を加えた印象。
- 成木サイズ:4年生で高さ約2.3 m、樹冠幅約2.2 m。主枝(cane)は4年生で約10本程度。
- 葉色は通常のサザンハイブッシュより濃い暗緑色("Black Forest" 系の色相)で識別性が高い。
- 早春に葉の展開(leafing out)が早く、ノースフロリダで春先に欠葉になりにくい。
結実特性
- 開花期: 北中フロリダで2月上旬〜中旬。50%開花日の平均は2月8日前後で、'Emerald' よりやや遅く咲く中早生。
- 収穫期: 北中フロリダで4月下旬〜5月中下旬(25%熟果が4月20日頃、50%熟果が5月4日頃、収穫終了が5月20日頃)。'Star' より約6日遅れの中早生。
- 収穫期間: 多花・多結実のため収穫期間が長く、約6週間にわたる。
- 低温要求量: 約300時間(7℃以下)。低チル品種に分類され、温暖地域での早春出荷向け。
- 耐寒性: 花・幼果は -3℃まで耐え、休眠期の樹体は -15℃まで耐える。
- 収量: 北東フロリダで3年生以上の樹で1株あたり約5〜10ポンド(約2.3〜4.5 kg)。HS1245(UF/IFAS)では平均約8.7 lbs/株(約3.9 kg)と記録。多花・多結実型で、過着果になりやすい傾向あり。
- 自家結実性: 部分的に自家不和合性(partially self-incompatible)と記載される一方、特許書類では「他のサザンハイブッシュより自家結実性が高い」とされ、温室試験で人工自家受粉により87花中79果が結実した報告がある。十分な収量確保には他家受粉の併用が推奨される。
- 特記: 多くのサザンハイブッシュは他家受粉により成熟が早まるが、'Farthing' と 'Emerald' は他家受粉による熟期早進効果が見られない品種として報告されている。'Farthing' では他家受粉により果実の硬度・酸度がやや低下する報告あり。
果実特性
- 果実サイズ: 中〜大粒。多結実年は中粒(平均1.9〜2.2 g)に留まるが、軽い結実年や摘果実施時は大粒(最大3.1 g)。特許書類では平均2.1 g('Star' の1.8 gより大)。果実高さ約1.27 cm、果径約1.71 cm、亜球形(subglobose)。
- 果皮色: 平均より濃いブルー寄りで、果実全体の着色均一性は他品種よりやや劣る傾向。特に多結実時やトンネル栽培下では花梗側(stem end)が赤〜紫を残しやすい弱点が指摘されている。
- 硬さ(firmness): 非常に硬く、ほぼパリッとした食感(nearly crisp texture)。HS1245評価では212〜263 g/mm(平均227 g/mm)と 'Emerald'(195 g/mm)を上回る。
- 糖度(Brix): 平均約11.8(範囲10.1〜12.4)。'Emerald' より高い。日本のブログ等の報告では15度超の例もあり。
- 食味: 甘味と弱い酸味のバランスが良く(sweet, subacid)、ジューシーで皮が薄い。フレーバースコアは23.4('Emerald' 19.9 と 'Kestrel' 29.0 の中間)。
- 果梗痕(picking scar): 小さく乾燥しており、機械収穫・パッキングに適合。'Windsor'(大スカーで欠点)に対し大きな改良点。
- 日持ち(shelf life): 高い果実硬度と樹上での日持ちの良さにより、商業流通・長距離輸送に適合。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone 7〜10 程度を栽培適地とし、休眠期に -15℃ まで耐える。花・幼果は -3℃まで。北部地域の厳冬には不向き。
- 耐暑性: 高温多湿のフロリダ気候下で育成された低チル品種で、亜熱帯〜温暖地への適応性が高い。
- 病害虫耐性:
- 根腐病(Phytophthora cinnamomi 由来 root rot)に平均以上の耐性。
- 茎枯病(Botryosphaeria dothidea 由来 stem blight)に平均以上の耐性。
- 茎癌腫病(Botryosphaeria corticis 由来 cane canker)への感受性は観察されていない('Star' が同病に弱いのに対し優れる)。
- 葉斑病(fungal leaf spots)は登録殺菌剤で容易に防除可能。
- 害虫被害は特に顕著なものは観察されていない。
- 総じて病害耐性は強健(disease-resistant bush)と評価される。
推奨栽培地
- アメリカ: フロリダ州北中部(main target)、フロリダ中部の一部(十分なチル時間が得られる地域)、ジョージア州南部の商業圃場でも植栽実績あり。
- 国際ライセンス先: アルゼンチン、ブラジル、チリ、欧州連合(EU)、日本、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、南アフリカ、ウルグアイ等で排他的ライセンス契約により流通(FFSP公式情報)。
- 低チル要求(300時間)と早生性から、地中海性気候・亜熱帯地域全般で早春出荷窓を狙える品種。
- 日本では暖地(東北南部以南〜九州・沖縄)でサザンハイブッシュ栽培適地に該当。
受粉相性
- 部分的自家不和合性(partially self-incompatible)と記載されるが、温室での自家受粉試験では高い結実率(87花中79果)を示し、自家結実性は他のサザンハイブッシュより高めとの評価もある。
- 商業栽培では他のサザンハイブッシュ品種との混植による他家受粉が推奨される。
- 開花期が重なる 'Emerald'、'Star'、'Windsor'、'Jewel'、'Springhigh'、'Primadonna' 等が受粉相手の候補となる。'Emerald' とは開花期がやや前後するが重なるため、フロリダ商業圃場で隣接植栽されることが多い。
- 他家受粉による果実品質変化に特異性あり:'Farthing' では一般的な「他家受粉で熟期早進・果実大型化」効果が現れず、むしろ他家受粉で硬度・酸度がやや低下する研究報告がある(フロリダ大学関連研究)。
- 剪定研究:2025年の南ジョージア商業圃場での試験(Ames, Rossi, Espinoza, Faulk)で、'Farthing' では選択的手剪定(selective hand pruning)が機械ヘッジング比で総収量を低下させず、果実サイズ・重量を増大させ熟期を早める効果が確認された。
商業利用状況
- フロリダ州北中部のサザンハイブッシュ商業栽培で、'Emerald'、'Jewel'、'Star'、'Windsor'、'Springhigh' 等と並ぶ主要品種の一つとして広く植栽。
- 高い果実硬度・小さい果梗痕・樹上での日持ちの良さにより、商業圃場での機械収穫(machine harvesting)に成功裏に対応する数少ないサザンハイブッシュとして評価。
- 国際的にもライセンス契約により多数の国で栽培されており、低チル早生市場での重要品種に位置付けられる。
- 苗木増殖は半木熟(softwood)挿し木で容易、苗床での生残・生育も良好。これまでに数千本が無性増殖され、すべて表現型が原木と区別不可能と確認されている(特許書類)。
- ライセンス:Florida Foundation Seed Producers, Inc.(FFSP)が商業権利を管理。
日本での状況
- FFSP公式の国際ライセンス対象国に「日本」が含まれており、日本でも正規ライセンスルートを通じた商業流通が可能。
- 日本国内の観光農園・直売向け栽培事例として、愛知県岡崎市の「ブルーベリーファームおかざき」、茨城県の「ツクベリーやさと」、千葉県市原市の「さわやかブルーベリーファーム市原」、福島県郡山市の「ベリーズパーク郡山」等で 'ファーシング'(Farthing)として植栽・紹介されている。
- 日本での評価:「パリッとした食感」「大粒でジューシー」「穏やかで優しい甘さ」「酸味・香りはやや弱め」「雨で実が割れやすい傾向」「縦型樹形でコンパクト」「樹勢が強く育てやすい」と紹介されることが多い。糖度10〜12度、まれに15度超の事例あり。
- 開花期が 'Jewel' や 'Emerald' に比べて遅く、遅霜被害のリスクが少ないため日本の暖地でも採用されやすい品種特性として紹介されている。
- 一般園芸店・通販での苗流通量は限定的で、'O'Neal'、'Misty'、'Sunshine Blue' 等の主要サザンハイブッシュに比べると一般消費者向けの普及度はまだ高くないが、近年の観光農園・新規開園で導入事例が増えつつある。
- 日本ブルーベリー協会等の解説でもサザンハイブッシュは東北南部以南が栽培適地とされており、'Farthing' の低チル特性(300時間)は日本の暖地気候に適合する。
育成者注釈・特記事項
- Paul M. Lyrene 博士は1980年代以降フロリダ大学のサザンハイブッシュ育種を主導し、'Sharpblue'、'Misty'、'Star'、'Emerald'、'Jewel'、'Windsor'、'Springhigh'、'Primadonna' 等の主要商業品種を多数リリースした。'Farthing' はその系列の重要品種の一つで、特に「機械収穫適性」「商業流通適性」「病害耐性」を兼ね備えた点が評価される。
- 'Windsor' を花粉親とした選抜で、'Windsor' の利点(樹形・甘味)を継承しつつ、'Windsor' の最大の欠点(大きな果梗痕、商業包装での問題)を克服した点が育成上の重要ポイント。
- 弱点:(1) 多結実時に果実の着色均一性が低下し、花梗側に赤〜紫が残ることがある、(2) 多結実で果実サイズが小型化しやすいため収量・サイズの両立に剪定や摘果が必要、(3) 雨による果実割れの傾向(日本の生産者報告)、(4) 他家受粉による熟期早進効果が乏しい点。
- 米国植物特許 USPP 19,341 は2027年10月1日に満了予定。
- 2025年の研究で選択的手剪定が機械ヘッジング比で収量を維持しつつ果実品質・早期市場価格を改善する可能性が示され、商業栽培での剪定戦略最適化が今後の課題。
参考情報源
- USPP19341P2 - Southern highbush blueberry plant named 'Farthing'(Google Patents、特許書類全文)
- Southern highbush blueberry plant named 'Farthing'(FreePatentsOnline)
- HS1245: Southern Highbush Blueberry Cultivars from the University of Florida(UF/IFAS EDIS)
- Farthing | blueberry-breeding(UF Blueberry Breeding Program 公式品種ページ)
- 'Farthing'(Florida Foundation Seed Producers, Inc. 公式 ライセンス情報)
- Vaccinium 'Farthing' Southern Highbush Blueberry(AgriStarts、商業苗供給)
- Selective Hand Pruning Does Not Reduce Yield Of 'Farthing'(Journal of the American Pomological Society、2025)
- Cross-Pollination Plays a Crucial Role in Optimal Yields(Florida Blueberry Growers Association)
- ENY2126/IN1454: Benefits of Mixed Cultivar Plantings for Cross-Pollination in Blueberry(UF/IFAS)
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- ハイブッシュブルーベリーについて(一般社団法人 日本ブルーベリー協会)