フローダブルー Flordablue
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
1950年代、フロリダ大学(UF/IFAS)の Ralph H. Sharpe 博士の主導により、温暖なフロリダ気候で栽培可能なハイブッシュ系ブルーベリーの育種プログラムが開始された。北部ハイブッシュ品種・選抜系統(主に Vaccinium corymbosum L.)と、フロリダ北部・中部に自生する低温要求量の少ない野生種(V. darrowii Camp、V. ashei Reade)を交配することにより、染色体数の異なる種間雑種が作出された。'Flordablue' は Ralph H. Sharpe 博士と Wayne B. Sherman 博士により1976年に正式リリースされ、'Sharpblue' とともに「世界で最初に商業生産向けに公表された低温要求量の少ない(low-chill)ハイブッシュ系品種」となった。CooksInfo の記述では、Sharpe・Sherman 両博士が Mr. Arthur Elliott の所有農場で本品種を選抜開発したとされ、Florida Agricultural Experiment Station から1975年(または1976年)にリリースされたと記載される。具体的な交配親(雌雄)の組み合わせは公的資料に詳細な記載が残されておらず不明な部分が大きい。商業リリース時には 'Sharpblue' と一対の相互受粉用ペアとして交互列植え(alternating rows)で栽培するよう推奨されていた。
樹体特性
- 樹勢: 中程度。資料により「強い」とする記述もあるが、'Sharpblue' と比較すると弱く、実栽培現場では「あまり強くない」との評価が一般的。
- 樹形: 開張性(spreading/open)。
- 樹高: 成木で約 0.5〜1 m(鉢植え・地植えとも)。株張りは 1〜1.5 m 程度。
- 常緑性: 暖地では半常緑性。
- 発根性・繁殖性: 'Sharpblue' と比較して発根しにくく、生育(survivability)にも劣るとされる。これが後年 'Sharpblue' へ偏って植栽が集中した一因となった(UF/IFAS および Growing Produce 解説)。
- 過湿耐性: 弱い。排水良好な用土が必須。
結実特性
- 開花期: 米国フロリダで早春(2〜3月)。日本では4月中旬〜5月中旬(花ひろばオンライン/苗木部の販売情報)。
- 収穫期: 米国フロリダで5月(早生)。日本では6月中旬〜下旬(暖地)。
- 低温要求量: 約300時間(7.2℃以下)と非常に少ない(CooksInfo 記載)。フルーツプランツ・バリエーション(fruitplantsvariation.blogspot.com)では 150〜300時間との記載あり。SHB品種としても極低チル区分に該当。
- 収量: 「果実生産性は非常に高い」と複数の日本国内業者が記載(花ひろばオンライン/苗木部)。実際には発根性・生育の弱さから実栽培収量は 'Sharpblue' に劣る場合があった。
- 結実性: 接木大苗で植え付け1年目から結実が見込める。
- 特徴: 花が多く咲きすぎる傾向があり、適度な摘花・摘果が必要との記載あり。
果実特性
- 果実サイズ: 中粒(直径約15〜17 mm)。一部資料には「大粒で6 g を超える」との記述もあるが、主要な国内業者情報では中粒分類。
- 果皮色: 青色〜濃青色。
- 果肉: 比較的柔らかく、商業長距離輸送には不向きとされる。
- 食味: 甘味中程度、酸味と甘味のバランスが良い。糖度は完熟時で平均11〜12度(Brix)と国内業者は記載。種の食感(ザラザラ感)は少なめ。
- 食味評価: 国内販売情報では甘味評価★☆☆☆☆〜★★☆☆☆と相対的に低い(同時代以降の 'Emerald'、'Jewel' 等と比較して劣る)。
- 用途: 生食。
- 日持ち: 中程度。輸送性は良くないため、地元市場・摘み取り園向けと位置づけられる。
- 果柄痕(picking scar): 詳細不明。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 普通(国内業者評価)。USDA Zone 推定値は7〜10前後(SHB一般範囲)。
- 耐暑性: 強い。フロリダ亜熱帯気候で育成されたため温暖・高温条件に適応。
- 耐病性:
- 茎枯病・ステムキャンカー(stem canker)への抵抗性ありとの報告(fruitplantsvariation.blogspot.com 記載)。
- 一方で疫病菌 Phytophthora に対しては感受性が高いとされ、過湿条件下で根腐れリスクが大きい。
- その他病害(ミイラ病、Botryosphaeria 茎枯病等)への具体的評価は公表資料中で不明。
- 耐乾燥性: 弱い(国内業者評価)。
- 耐湿性: 弱い。排水良好な土壌での栽培が必須。
推奨栽培地
- 米国フロリダ州中部(central Florida)が原産的な推奨栽培地。リリース時の UF/IFAS 公表資料タイトルも『Flordablue and Sharpblue: Two new blueberries for central Florida』であり、フロリダ中部向け品種として位置づけられた。
- 米国湾岸南部、カリフォルニア南部などの低温要求量が低い地域。
- ジョージア州では推奨されない(輸送性に難があり、低温要求量が同州北部には不適)。
- 日本では関東以西の温暖地・暖地に適する。国内業者は「東北〜九州」を栽培適地と記載するが、樹勢の弱さと過湿への弱さから栽培難易度は高め(★☆☆☆☆評価)。
- USDA Zone 7〜10(SHB一般範囲、Flordablue 個別の公的記載は不明)。
受粉相性
- 自家結実性: 弱い(partially self-fertile)。1本でも結実するが、収量・果実サイズの観点から他品種との混植が強く推奨される。
- リリース時のペアリング: 'Sharpblue' との交互列植え(alternating rows)で相互受粉させる方式が当初推奨された。
- 受粉樹推奨: 同じサザンハイブッシュ系の 'Allen(アーレン)'、'Biloxi(ビロキシー)'、'Daplin(ダップリン)'、'Georgia Gem(ジョージアジェム)'、'Magnolia(マグノリア)'、'Pearl River(パールリバー)'、'Summit(サミット)' 等(花ひろばオンライン/苗木部の推奨例)。開花期が重なる SHB 品種を選定する。
商業利用状況
- 1976年リリース当初は 'Sharpblue' とともに「世界初の商業向け低温要求性ハイブッシュ品種」として注目され、フロリダ州ブルーベリー商業出荷産業の立ち上げに貢献した。Sharpe 博士は「フロリダ州が出荷型ベリー産業を確立するためには早生品種が不可欠」との信念から本品種を投入した。
- リリース直後はフロリダの生産者が 'Sharpblue' と 'Flordablue' を交互列に植える方式で栽培していたが、'Sharpblue' のほうが発根性・生存率に優れていたため、徐々に 'Sharpblue' のソリッドブロック植栽(単一品種ブロック)が増加し、結果として相互受粉が不十分となり収量が大幅に低下した経緯がある。
- 現在では商業栽培の主流から退き、後続のSHB品種('Misty'、'Star'、'Emerald'、'Jewel'、'Windsor'、'Farthing' 等)に置き換わっている。
- ただし、UF/IFAS は「'Sharpblue'、'Flordablue'、'Avonblue' のリリース系統群が世界中の SHB 品種に遺伝的に貢献した基幹品種である」と評価しており、後続SHB系統育成における歴史的・遺伝的位置づけは極めて重要。
- 現在の商業栽培規模は限定的だが、家庭園芸・観光農園・摘み取り園向けの古典品種として一部で植栽が継続されている。
日本での状況
- 国内では「フローダブルー」または「フロリダブルー」として一部のオンライン苗木業者で流通している(花ひろばオンライン/苗木部、Yahoo!ショッピングの該当商品など)。
- 流通形態: 2年生接木大苗(高さ約70 cm、根鉢径約15 cm、価格 ¥3,848 税込)、3年生接木大苗(高さ約80 cm、根鉢径約21 cm、価格 ¥6,699 税込)等。
- 入荷時期は10〜11月が中心で、在庫は限定的(しばしば「売切れ」表示)。
- 評価: 「果実生産性は非常に高い」と紹介される一方、樹勢の弱さ、過湿への弱さ、栽培難易度の高さ(業者評価★☆☆☆☆)から、初心者向けではないと位置づけられる。
- 大手観光農園(ブルーベリーファームおかざき等)の主力導入実績は確認できず(同園は近縁品種 'Florida Rose' を導入しているが Flordablue ではない)。
- 関東以西の暖地での家庭園芸・コレクション品種としての位置づけが中心。
育成者注釈・特記事項
- 'Flordablue' は「Florida(フロリダ)+ blue」の合成語であり、育成地フロリダ州にちなむ命名である。
- 世界で最初に商業生産向けに公表された低温要求性ハイブッシュ系品種('Flordablue'、'Sharpblue')の双璧の一つであり、現代のサザンハイブッシュ(SHB)品種群すべての歴史的起点となった重要品種。
- リリース時に UF/IFAS から公表された Circular(小冊子)『Flordablue and Sharpblue: Two new blueberries for central Florida』(Sharpe, R. H. 著、University of Florida Agricultural Experiment Stations 発行)は、本品種の正式記述資料として現在も古書市場(Amazon.com 等)で取引されている(注:本資料の本文 PDF は本調査では取得していない)。
- 商業的にはペア相手の 'Sharpblue' に主役を譲った形であるが、SHB育種史上の意義は極めて大きい。
- 1976年リリースのため、米国植物特許(PP)の対象外と考えられ、現在は無償で増殖・販売可能な公知品種である。
- 開花が早春のため、晩霜害および受粉昆虫の活動時期とのギャップが課題となる(SHB系全般の課題と共通)。
- 過湿に弱く、根が Phytophthora に感受性であるため、栽培時は排水重視の用土・管理が必須。
参考情報源
- HS1245 / Southern Highbush Blueberry Cultivars from the University of Florida(UF/IFAS EDIS)
- HS1245(Ask IFAS)
- The 'Sharpblue' Southern Highbush Blueberry – Journal of the American Pomological Society Vol.46 No.4
- UF/IFAS Plant Breeding – Blueberry Program
- Flordablue Blueberries – CooksInfo
- Florida's Rich Blueberry History – Central Florida Ag News
- Southern Highbush Blueberries Make Florida First to Market – Central Florida Ag News
- Bllueberry Releases, UF/IFAS Plant Breeding(Growables.org)
- Flordablue and Sharpblue: Two new blueberries for central Florida(Sharpe, R. H. 著、Amazon 書誌情報)
- 花ひろばオンライン/苗木部 – フローダブルー(2年生接木大苗)
- 花ひろばオンライン/苗木部 – フローダブルー(3年生接木大苗)
- 苗木部 商品QRコード解説 – フローダブルー
- ブルーベリー全品種特性一覧(fruitplantsvariation.blogspot.com)
- Yahoo!ショッピング – ブルーベリー 品種フロリダブルー