キャサリン Katharine
ノーザンハイブッシュ系
系譜・来歴・命名由来
交配親
- 交配組合せ: 'Brooks'(野生ハイブッシュ選抜)× 'Sooy'(野生ハイブッシュ選抜)
- 交配実施年: 1913年(一部資料では「1912年の交配」とも記載され、出典により若干差異がある)
- 公表年: 1920年('Pioneer'と並び、Coville博士による初期発表品種群の一つ)
両親はいずれも野生のハイブッシュブルーベリー(Vaccinium corymbosum)から選抜された自生株で、'Brooks'はニューハンプシャー州産の大粒野生株、'Sooy'はニュージャージー州・パインバレンズ地方で発見された野生株である。両者の人工交配(F1)として、'Pioneer'(最初の発表品種)と並んで'Katharine'がCoville育種プログラムの初期成果として発表された。
命名由来
'Katharine'はCoville博士の娘、Katharine Woodburn(旧姓Coville、Mrs. Chester C. Woodburn、後にアイオワ州デモイン在住)に因んで命名された。Coville博士自身が次のように記している:
"named after my daughter, Katharine, now Mrs. Chester C. Woodburn, of Des Moines, Iowa, who in one of her high-school years did all my blueberry pollinations."
(娘キャサリン――現アイオワ州デモインのウッドバーン夫人――に因んで命名した。彼女は高校時代の一年間、私のブルーベリー受粉作業をすべて担当してくれた。)
つまり、Katharineは父親の育種事業に深く関わり、ある一年間は受粉作業を全面的に担った人物であり、本品種はその貢献に対する敬意を込めて命名されたものである。
樹体特性
- 樹勢: 強い(vigorous)。
- 樹形: 直立性〜やや開張性。
- 樹高: アーノルド樹木園(米国ハーバード大学附属、ホイッツボッグ由来の標本園)に保存されている老樹個体では 約3.2 m(10.5 ft) に達する。当地の7本のホイッツボッグ標本のうち、もっとも高い個体として記録されている。
- 耐寒性: ノーザンハイブッシュ系として通常 USDA Zone 4〜7 に適応すると見られるが、本品種固有の詳細データは不明。
果実特性
- 果実サイズ: 大粒。原木個体では わずかに19 mmを超える 直径の果実を結実し、商業栽培下では 20 mmに達することもあった とCoville博士自身が報告している。当時としては野生種の倍以上の大きさで、画期的な成果として位置付けられた。
- 果皮色: 明るい青色(light blue)。
- 食味: "especially delicious flavor"(特に美味)と記述され、初期育成品種の中でも食味評価が高い。
- 収穫期: 'Pioneer'よりやや遅く成熟する中〜中晩生。
- 果実の弱点(収穫上の課題): 果実が果梗(ステム)に強く付着し、引き離す際に果実基部が破れやすい("the berry clings tenaciously to its stem, and when it is pulled away a hole is often torn in the base of the berry")。この収穫時の裂傷(torn picking scar)は商業流通における致命的な欠点であり、Stanley・Pemberton等の改良品種が必要とされた要因でもある。
歴史的意義
- NHB初期15品種の一つ: Frederick V. Coville博士は、1937年の死去までに15品種のハイブッシュブルーベリーを公表した。'Katharine'はその初期発表群(1920年公表の'Pioneer'とほぼ同時期)に位置付けられる古典品種である。
- 野生種から栽培種への橋渡し: 'Brooks'×'Sooy'というF1組合せは、野生ハイブッシュ間の人工交配で大粒・良食味を引き出した最初期の成功例であり、商業ブルーベリー育種の出発点を象徴する。
- 'Brooks'の重要性: 'Brooks'はCoville博士の最初期USDA15品種のうち13品種の系譜に直接または間接的に関与しており、'Katharine'はその中でもとくに次世代育種で多用された母本である。
- 「育種家の娘」品種: 受粉作業を担った娘の名を冠した点で、初期USDA育種における家族的・個人史的なエピソードを伝える品種でもある。
現代品種への遺伝的寄与(Stanley/Pembertonの母本)
Stanley(スタンレー)— 母本: Katharine、父本: Rubel
- 交配年: 1921年(Coville博士による'Katharine'×'Rubel'の交配)
- 公表年: 1930年(一部資料では「1921年に選抜され後に発表」)
- 命名: Coville博士の息子Stanleyに因む(彼のニュージャージー州のブルーベリー園で本品種が試作・評価された)
- 特徴: 中粒〜やや大粒、極めて強い甘味で「これまで生み出されたブルーベリーの中でもっとも甘い品種の一つ」と評される。樹高約1.8 m。USDA Zone 5a〜8b。果実は7月下旬〜8月上旬収穫。
- 位置付け: Katharineの「優れた風味・大粒性」と、野生選抜株Rubelの「丈夫さ・果実品質」を組み合わせた、Coville育種プログラムにおける親子コラボ的な交配の代表例。
Pemberton(ペンバートン)
- ユーザーからの調査依頼では母本「Katharine×Rubel」と記されているが、本調査で参照したオンラインHTML資料の範囲では、'Pemberton'の親系譜(特にKatharineが母本であること)を明示的に裏付ける一次資料・二次資料は確認できなかった。
- 一般的に知られている事実:
- 'Pemberton'はCoville育種プログラムから派生した古典的NHB品種で、1939年頃に公表された(Coville博士の死後発表)。
- ニュージャージー州Pemberton Township(ホイッツボッグ所在地)に因む地名命名である。
- ブルーベリースコーチウイルス(Blueberry scorch virus)に高感受性であることが知られ、現代では商業栽培ではほとんど見られない。
- 親系譜について:上記のとおり、本調査範囲では'Katharine×Rubel'の交配とする一次情報は確認できなかった。USDA-NAL(米国国立農業図書館)所蔵のCoville育種ノート(オリジナルは紙資料)に正確な親系譜が記録されていると推察される。詳細不明。
現代品種への遺伝寄与
- 'Katharine'の血統は、'Stanley'を経由して現代の多くのNHB品種に間接的に流入している。
- USDA初期15品種の多くが互いに交配されつつ次世代を生んでおり、現代の主要NHB品種(Bluecrop, Berkeley, Earliblue, Jersey系列など)の系譜を遡ると、Coville初期15品種のいずれかに行き着く事例が多い。
- ただし'Katharine'自身が祖父母世代として明示的にカウントされる現代品種の系譜情報は、本調査の参照HTML範囲では限定的にしか確認できなかった。詳細不明(要:USDA-NAL一次資料調査)。
日本での状況
- 日本国内のブルーベリー専門苗木業者・愛好家サイト・観光農園でのKatharine(キャサリン)の流通・栽培事例は、本調査の参照範囲では確認できなかった。
- 日本のブルーベリー文化では、古典USDA品種としては'Bluecrop''Jersey''Earliblue''Rubel'などが普及しているが、'Katharine'は商業流通からはほぼ姿を消しており、日本市場でも一般販売はされていない見込みである。
- 標本としての価値はあり、米国アーノルド樹木園の保存個体のように、ホイッツボッグ由来の遺伝資源としての歴史的位置付けが主である。
- 詳細不明(日本国内での流通実績・栽培実績についての具体情報は確認できず)。
育成者注釈・特記事項
- 'Katharine'は果実は美味で大粒だったが、収穫時の「ステム付着部の破れ」という決定的な欠点があり、商業品種としての普及は限定的だった。しかし親本としての価値は高く評価され、'Stanley'を生んだことで間接的に大きな遺産を残した。
- Coville博士のブルーベリー育種ノート(1907年〜)はUSDA国立農業図書館(NAL)に保管されており、'Katharine'の交配記録・選抜記録の詳細はこれら一次資料を当たることで完全な情報が得られる。
- 米国マサチューセッツ州のArnold Arboretum(アーノルド樹木園、ハーバード大学附属)には、ホイッツボッグ由来の老木7本が現存し、その中で'Katharine'は最も樹高の高い個体(約3.2 m)として記録されている――歴史的遺伝資源として今も生きている。
参考情報源
- The Arnold Arboretum, Harvard University「'Dunfee' Highbush Blueberry」
- ChathamApples / Small Fruits NY「Improving the Wild Blueberry(1937年テキスト)」
- Backyard Berry Plants「Stanley Heirloom Highbush Organic Blueberry Plant」
- USDA AgResearch Magazine「Blueberry Growing Comes to the National Agricultural Library(2011年5月)」
- USDA「Celebrating the Highbush Blueberry's Centennial」
- USDA ARS「Historic Collection at NAL Gives Insight into Blueberry's Domestication」
- Italian Berry「110 years of blueberry history」
- JSTOR Daily「The Delicious Origins of the Domesticated Blueberry」
- National Agricultural Library Archives「Frederick Vernon Coville Records on Blueberries」
- Internet Archive「Frederick Vernon Coville blueberry records / box 1 (1907-1908)」
- New Jersey Digital Highway「The Blueberry Industry」
- Pacific Northwest Pest Management Handbooks「Blueberry-Virus Diseases」