ケストレル Kestrel
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 育成者(特許上の発明者): Paul M. Lyrene 博士(フロリダ大学園芸科学部、UFサザンハイブッシュ育種プログラムの中心人物)
- 交配組合せ: 種子親(母本): 'FL95-54'(フロリダ大学育種プログラムの未公表・未特許のサザンハイブッシュ選抜系統)/花粉親(父本): 'FL97-125'(同じく未公表・未特許のサザンハイブッシュ選抜系統)
- 選抜コード: FL02-40
- 来歴: 1999年2月、フロリダ大学ゲインズビル校温室で交配。2001年春に初結実、2002年春に緑枝挿し(softwood cutting)で増殖。2009年にフロリダ大学からリリース、米国植物特許 PP21,719 が2011年2月22日に登録。
- 遺伝的背景: V. corymbosum を主体に低温要求性を低下させる V. darrowi 由来の遺伝子を含む四倍体(2n=4x=48)と推定される、典型的なフロリダ系サザンハイブッシュ。
- 注記: 本品種はFall Creek Farm & Nurseryの自社育成品種ではなく、フロリダ大学(UF/IFAS)育成・FFSP管理の品種である。Fall Creekは米国外でのマスター・ライセンシー/プロパゲーターとして商業流通を担っているため「Fall Creek proprietary(プロプライエタリ取扱い品種)」と呼称されることがある。
樹体特性
- 樹勢: 旺盛(vigorous)。
- 樹形: 開張型(spreading growth habit)。
- 常緑性: 高い常緑ポテンシャル(high evergreen potential)を持ち、フロリダ中南部などの暖地ではエバーグリーン栽培体系(evergreen production system)に適応。
- 栽培体系: シアナミド(hydrogen cyanamide)処理は推奨されない(Not recommended)。エバーグリーン栽培向け。
- 早期萌芽性: 早期に葉を展開する性質を持つため、晩霜害に対して特に感受性が高い(特に北中フロリダ等で注意が必要)。
結実特性
- 開花期: フロリダ州ウィンザー(Windsor, FL)にて50%開花日 平均1月30日(極早生)。
- 収穫期: 同地点で50%成熟日 平均4月22日。フロリダ州ゲインズビル近郊では初収穫が4月5日頃と非常に早い(Florida市場の極早生〜早生窓)。
- 低温要求量: 約200時間(7.2℃以下、極低チル)。
- 収量: 北中フロリダ(2015–2019年平均): 1株あたり3.0–5.3 lbs(約1.36–2.40 kg)、平均4.3 lbs(約1.95 kg)。中南部フロリダ(2019年): 1株あたり4.7 lbs(約2.13 kg)。推奨植栽密度: 1,452–1,742 株/エーカー(約3,587–4,304 株/ha)。
- 自家結実性: 公表資料に明示的記載は乏しく不明。一般的にサザンハイブッシュは自家結実性を持つが、商業生産では他品種混植による他家受粉が推奨される。
- 機械収穫適性: 果実離脱力(detachment force)が極端に低いため、機械収穫には不向きとされる(過熟前後の落果リスクが高い)。
果実特性
- 果実サイズ: 中〜大粒。UF育種プログラム評価: 1.8–2.6 g(平均2.1 g、'Chickadee'と同等)、果径16.5–19.6 mm(平均17.5 mm)。FFSP記載: 平均果重 約2.7 g、果実は「ふっくらして硬く香り高い(plump, firm, and aromatic)」。
- 果皮色: ブルー〜濃ブルー(青みが乗ってくる前の段階から既に甘いとされる)。
- 果肉硬度: 平均204 g/mm(範囲175–234 g/mm)。FFSPの別記載値189 g/mm。硬果系で日持ちに優れる。
- 糖度(Brix): 平均12.2°Brix(範囲10.3–15.2)、'Emerald'よりも高い水準。FFSP記載:可溶性固形分 11.7%。
- 滴定酸度(TA): 0.37%。
- 糖酸比(SS/TA): 43.7。
- 食味: 甘味と程よい酸味の調和、香り(aroma)が高い。テイスティング・パネル評価で29.0と最高水準のフレーバー・スコア。
- 果梗痕(picking scar): 正常で、小さく乾燥(small and dry)。生食流通向き。
- 果実離脱力: 非常に低い(very low berry detachment force)。完熟果は穏やかな手摘みでも容易に外れる反面、機械収穫には不適。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 詳細な-℃データは公表資料上明示されておらず不明。低チル・極早生・常緑型品種であり、北部寒冷地には不向き。早期萌芽するため晩霜害(late freeze)に特に弱い点が明確に指摘されている。
- 耐暑性: フロリダの亜熱帯気候下で育成されており、暖地・高湿度環境への適応性は高い。
- 病害: 公表評価では「特筆すべき罹病性は観察されていない(No known susceptibilities observed)」。
- 害虫: ミナミアカダニ(southern red mite, Oligonychus ilicis)への一定の感受性が指摘されている。
推奨栽培地
- 米国: フロリダ州中部・中南部(central and south-central Florida)。エバーグリーン栽培体系で極早生窓を埋める品種として位置付けられる。
- 国際的展開: FFSP/UFがアルゼンチン、ブラジル、EU、日本、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、南アフリカ、ウルグアイで専有ライセンスを供与。低チル(150–250時間)かつ霜害リスクの低い亜熱帯〜地中海性気候の早生産地に適合。
受粉相性
- 開花期重複品種(FFSP/UF Blueberry Breeding 公式情報): 北中フロリダ: 'Keecrisp'、'Patrecia'、'San Joaquin'、'Vireo'。中部・中南部フロリダ: 'Arcadia'、'Chickadee'。
- いずれも極早生開花品種であり、Kestrelとの混植によって他家受粉と受粉時期の重なりが確保できる。
- 自家結実性の有無について公表資料に明示記載はなく不明。商業栽培ではサザンハイブッシュ間の混植による他家受粉が推奨される。
商業利用状況・ライセンス
- 権利保有: フロリダ大学(UF Board of Trustees)/ライセンス管理:Florida Foundation Seed Producers, Inc.(FFSP)。
- 米国内: FFSP が認定したライセンシー(複数のフロリダ系ナーセリー)が苗木増殖・販売。
- 米国外: アルゼンチン、ブラジル、EU、日本、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、南アフリカ、ウルグアイにおいて専有ライセンス(exclusive licenses)が供与されている。Fall Creek Farm & Nursery が国際展開のグローバル・パートナーとして関与(同社の「Commercial Fruit Growers」品種ラインナップに Kestrel™ FL02-40 が掲載)。
- 位置付け: 同社「Six new commercial blueberry varieties」リリースに含まれる新世代の極早生・高品質サザンハイブッシュ。フロリダ・メキシコ・ペルー等の極早生市場(4月〜5月の北半球エクストラ・アーリー・ウィンドウ)向けにプッシュされている。
- 商標: "Kestrel™" として商標表示。
- マーケット適性: 大粒・硬果・小スカー・高フレーバーで生鮮(fresh)市場および U-Pick・加工(process)にも適応するが、果実離脱力の低さから機械収穫主体のオペレーションにはやや不向き。
日本での状況
- FFSP公開情報により、日本(Japan)は Kestrel™ FL02-40 の専有ライセンス供与対象国の一つに含まれている。
- ただし2026年4月時点で、日本国内における具体的なマスター・ライセンシー名(増殖・販売を担うナーセリー)、商業植栽実績、観光農園・直売所での流通事例についてはWeb上で公開された情報は確認できず、詳細は不明。
- 一般消費者向け苗木流通(園芸店・通販)での確認情報は得られておらず、日本での普及度は極めて限定的または未流通と推定される。
- 米国植物特許(USPP 21,719)および国際ライセンス契約の対象であるため、日本国内で商業栽培を行う場合はFFSP指定ライセンシーまたはFall Creek正規パートナーを通じた契約・苗供給が必要。
育成者注釈・特記事項
- Paul M. Lyrene 博士はフロリダ大学サザンハイブッシュ育種プログラムを1980年代以降牽引してきた育種家であり、'Emerald'、'Jewel'、'Star'、'Windsor' などフロリダ商業の基幹品種を多数手がけてきた。Kestrel はその次世代ライン(FL02–FL07世代)の極早生・高品質型として位置付けられる。
- 強み: (1) 極めて早い開花・成熟(フロリダで4月初旬の極早生窓を獲得)、(2) 高い常緑性、(3) 高フレーバー・高糖度・高香り、(4) 大粒で小スカーの優良果実形状、(5) 顕著な病害感受性が報告されていない健全性。
- 弱み: (1) 早期萌芽による晩霜害感受性、(2) 果実離脱力が低く機械収穫に不向き、(3) ミナミアカダニへの一定の感受性、(4) 親系統(FL95-54、FL97-125)が未公表であり遺伝的背景の細部は非公開。
- 参考位置付け: Fall Creek Nursery のニュースリリース(2020年)で発表された「Six new commercial blueberry varieties」の一翼を担い、メキシコ・ペルー・南欧などのエバーグリーン低チル産地での極早生市場をターゲットとした品種ポジショニング。
- 用途:生鮮(フレッシュ)流通、U-Pick、観光農園、加工原料(ただし果実離脱力の低さから機械収穫前提の加工ではなく手摘みベース)。
参考情報源
- Kestrel™ 'FL02-40'(Florida Foundation Seed Producers, FFSP 公式)
- Kestrel FL02-40(University of Florida Blueberry Breeding Program 公式)
- Commercial Fruit Growers - Kestrel FL02-40(Fall Creek Farm & Nursery)
- Six new commercial blueberry varieties(Fall Creek Nursery ブログ、2020年)
- USPP 21,719 P3 - Blueberry Plant Named 'FL02-40'(Google Patents)
- HS1245: Southern Highbush Blueberry Cultivars from the University of Florida(UF/IFAS EDIS)
- Kestrel | Variety Profile(Oregon Blueberry)
- New Blueberry Varieties Taking Flight(Growing Produce)
- Five new blueberry varieties introduced by Fall Creek(Fresh Fruit Portal、2020年)
- Fall Creek® - 2025 Berry Catalogs & Blueberry Plants