スプリングワイド Springwide
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 育成者: Paul M. Lyrene 博士(フロリダ大学園芸科学部、サザンハイブッシュ品種多数の育成者)
- 交配組合せ: FL83-132(未特許の選抜系統)× 'Sharpblue'(未特許)。1984年にフロリダ大学ゲインズビル校で交配。1986年に初結実、1990〜1998年にかけてフロリダ州内複数地点で評価試験。
- 遺伝的背景: V. corymbosum を主体に V. darrowi 由来の低温要求性低下遺伝子を組み込んだ複雑な系譜の四倍体。Sharpblue は当該プログラム初期の代表的低チル品種であり、Springwide はその系譜を引く早生・低チル系統。
- 品種公表: 米国植物特許 USPP 16,333 P3(2006年)として正式に保護・公表。ライセンスは FFSP 経由で米国内外のナーセリーに付与されてきた。
樹体特性
- 樹勢: 中程度(medium vigor)。エメラルド等の超強勢品種よりは穏やかな成長。
- 樹形: 半直立〜やや開張型(semi-erect、between upright and spreading)。
- 株姿: 株元から10〜15本の主軸枝(major canes)が立ち上がり、株元の幅は約40 cm。
- 樹高: 成木で約1.5 m。
- 樹冠: 樹冠直径は約1.3 m前後(特許書類記載)。
- 小枝の密度: 低〜中程度(low-to-medium twigginess)。花芽密度は中程度。
- 葉: 平均的なサザンハイブッシュ型の葉。
結実特性
- 開花期: 早生。フロリダ北中部で1月下旬〜2月にかけて開花(特許書類の他品種比較記載に基づく早生区分)。
- 収穫期: 早生。フロリダ州 Sebring(中部): 初収穫 約4月5日/フロリダ州 Windsor(北部): 初収穫の平均 約4月22日、最終収穫 約5月15日/同地域の比較品種より約5日早く成熟するとされる。
- 低温要求量: 約200時間(7℃以下)と非常に少ない。低チル区分の超早生サザンハイブッシュ。
- 満開から成熟までの日数: 特許書類で他品種より短い旨の記載あり(具体日数は特許明細書参照)。
- 収量: 中程度。北フロリダにおける4年生株でおよそ4ポンド(約1.8 kg)/株と報告。商業生産では低〜中程度の生産性区分に位置づけられる。
- 果房: 中〜密な房(medium-to-tight clusters)で1房あたり約6果。
- 自家結実性: 特許書類では花粉稔性が高く(約99%)、自家受粉での結実も可能とされるが、SHB一般同様、他品種との混植による他家受粉で結実・果実サイズが向上すると考えられる。明示的な自家不和合性記載は確認できず(不明)。
果実特性
- 果実重: 平均約3.1 g(大果)。
- 果実サイズ: 高さ約13.1 mm、幅約19.3 mm(扁平気味の大果)。
- 果皮色: 「フロスティ・ブルー(frosty-blue)」と表現される明るい中青色。収穫後にやや暗色化する傾向。Pantone 色見本では「Storm gray」〜「Gull」相当。
- 果柄離脱痕(picking scar): 小さく乾いた良好な離層痕(small, dry scar)で、生果輸送・市場性に有利。
- 果肉硬度: 高く、輸送性良好。
- 食味: 甘味が強くやや酸味があり(very sweet and slightly acid)、風味良好。
- 用途: 生食向け(fresh market)。早生・大果・良食感・良食味で生果輸送向きの形質を備える。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: 低チル・温暖地向けのサザンハイブッシュであり、冬季の低温要求量が非常に少ない反面、晩霜(late frost)・極寒には十分強くない。フロリダ州の温暖な気候を前提とした品種。
- 耐暑性: フロリダ州中・北部で適応しており、温暖〜亜熱帯気候に適応する。
- 疫病性根腐病(Phytophthora root rot): 平均以上の抵抗性(above-average resistance)。
- 茎枯病(stem blight): 良好な抵抗性。
- 枝枯病・キャンカー(cane canker): 良好な抵抗性。
- 真菌性葉斑病(fungal leaf spots): 平均的な抵抗性で、湿潤環境では殺菌剤管理が必要。
- 総合的圃場生存性: 良好。
- 害虫抵抗性: 特許書類および公開資料では具体的な記載は確認できず(不明)。一般的なサザンハイブッシュと同様の防除体系が必要と推察される。
推奨栽培地
- 適地: 低チル(200時間/7℃以下)地域、すなわち米国南部の温暖地〜亜熱帯地域。
- 不適とされる地域: 育成元 University of Florida のブルーベリー育種公式情報では「フロリダ州での栽培は推奨しない」とされている。理由は「フロリダの早期市場ウィンドウに対して成熟がやや遅すぎる(fruits too late for Florida's market window)」ため。
- 想定される実用適地: フロリダ州よりやや成熟期を遅らせて市場価値を発揮する地域、すなわち米国ジョージア州南部、メキシコ高地、南米(ペルー、チリ北部、メキシコ等)、北アフリカ、地中海沿岸など、フロリダの市場後の早生〜早中生需要を狙う低チル産地。
- 耐冷地としては不適: 低チルゆえ、米国北部・東欧・日本本州中部以北での冬季休眠不全リスクがある。
受粉相性
- 自家結実性: 花粉稔性が非常に高く(特許書類で99%染色陽性)、自家受粉でもある程度結実するとされるが、サザンハイブッシュ一般の通り、他品種との混植による他家受粉で果実サイズ・収量・成熟均一性が向上する。
- 推奨受粉樹: 公的な指定品種は確認できず(不明)。一般には開花期の重なる他のサザンハイブッシュ品種(例: Sharpblue, Star, Emerald, Jewel など)が候補となる。
商業利用状況
- 権利者・ライセンス: Florida Foundation Seed Producers, Inc.(FFSP)が品種ライセンスを管理。米国内外のナーセリーに対して有償ライセンスを供与してきた。
- 特許状況: 米国植物特許 USPP 16,333 P3 は2024年12月10日に存続期間満了。米国国内では特許保護は終了しているが、ライセンス契約・商標等の別途権利が残存する可能性あり。
- 位置付け: フロリダ大学のサザンハイブッシュ育種ラインのなかで Sharpblue を母本とする早生・大果系統だが、フロリダ州内では成熟期が市場ウィンドウからやや遅れるため、推奨対象外とされている。Lyrene 博士が生涯に育成した30以上のサザンハイブッシュ品種群のなかでは主力品種ではなく、後発の Emerald, Jewel, Star, Snowchaser, Meadowlark などが商業的主力となった。
- 後代育成への利用: 特許 USPP 24,876('BB07-210FL-18')の花粉親として Springwide が用いられており、後代育種素材としても活用された記録がある。
日本での状況
- 日本での流通・栽培情報: 日本国内のナーセリー・通販・公的試験場資料、および日本語ウェブ上で「Springwide(スプリングワイド)」品種の商業流通・販売・試験栽培報告は、本調査時点で確認できず(不明)。
- 農林水産省品種登録データベースへの登録: 確認できず(不明)。
- 適応性予測: 低温要求量が約200時間と極めて少ないため、日本本州以北の標準的露地栽培では冬季休眠が深く入りすぎず、早春の異常気象による霜害・開花障害リスクが大きい。九州南部・沖縄など暖地でも、フロリダ大学が「フロリダで遅すぎる」と評するように成熟期が日本市場の早出しタイミングに合わない可能性が高く、日本における実用栽培の優先度は低いと推察される。
育成者注釈・特記事項
- 育成者 Paul M. Lyrene 博士は、1977年からフロリダ大学でサザンハイブッシュ育種を主導し、生涯に30以上の品種を公表したフロリダ低チル育種の中核人物。Springwide はそのプログラムが Sharpblue を再交配親として活用した過渡期の早生選抜の一つ。
- 特許書類において「ripens approximately 5 days earlier than comparable varieties」と早熟性が強調される一方、UF/FFSP 公式情報では「フロリダの市場ウィンドウに対しては遅すぎる」とされており、育成元自身がフロリダ州内での商業推奨を行っていない点が大きな特徴。
- 後継の早生大果型品種(Emerald, Jewel, Star, Snowchaser, Meadowlark, Sentinel 等)の登場により、商業的主力からは外れたとみられる。
- 特許権はすでに存続期間満了(2024年12月10日)。
参考情報源
- Springwide 品種紹介(UF/IFAS Blueberry Breeding Program 公式)
- 米国植物特許 USPP 16,333 P3(Google Patents 該当ページ)
- Florida Foundation Seed Producers, Inc.(ライセンス管理元、ブルーベリー品種一覧)
- UF/IFAS Plant Breeding Program – Blueberry
- UF/IFAS EDIS HS1245「Southern Highbush Blueberry Cultivars from the University of Florida」
- USPP 24,876('BB07-210FL-18'、Springwide を花粉親として記載)
- Paul M. Lyrene 博士の業績紹介(UF/IFAS Horticultural Sciences)