ニューハノーバー New Hanover
サザンハイブッシュ系
系譜・来歴
- 親系譜: NC 1522(種子親、未特許)× 'O'Neal'(花粉親、未特許)
- 種子親 NC 1522: NCSU の未公表育成系統(O'Neal 含むサザンハイブッシュ系の血を持つと考えられるが詳細は非公開)。
- 花粉親 'O'Neal': NCSU 育成のサザンハイブッシュ早生主要品種(1987年発表、Ballington 育成)。サザンハイブッシュの基幹品種として世界的に普及。
- 1981 年に Raleigh の NCSU 温室で人工交配し、得られた 125 個体の実生群を圃場試験。1987 年に NC 3103 系統として優良個体を選抜。長期評価試験ののち 2005 年(一部表記 2007 年)に公表、2009 年 5 月 12 日に米国植物特許 USPP19,990 として登録。
- 育成目的: ノースカロライナ州沿岸平野部(Coastal Plain)における早中生サザンハイブッシュの基幹品種であった 'Croatan'(クロアタン)の後継として、果実サイズ・硬度・収穫後品質・収量を改善した品種を提供すること。'Sampson' と並ぶ NC 沿岸湿地土壌向け基幹品種として位置付けられる。
樹体特性
- 樹形: 半直立性〜やや開帳性(semi-upright)。樹勢は強健(vigorous)でしっかりした骨格を形成。若木期には低位の枝が広がるため、垂直方向への伸長を促す積極的な剪定が推奨される。
- 樹高: 成木で約 1.5 m(特許明細書)、商業苗木業者資料では 5.5〜6 ft(約 1.7〜1.8 m)との記載もあり。
- 樹幅: 成木で約 1.1 m。
- 主幹(cane)径: 約 4.2 cm。新シュート(renewal stems)は 1 株あたり約 2 本/年。
- 新葉: 萌芽時に 赤橙色(reddish-orange) を帯び、観賞性も高い。
- 花: 白色、花序あたり約 7.0 花。花粉量豊富。
- 繁殖: 硬枝挿し・緑枝挿しいずれも容易。
結実特性
- 開花期(米国 NC 沿岸部基準): 初開花 3 月 5 日頃/50% 開花 4 月 1 日頃('O'Neal' よりわずかに遅い、'Croatan' より約 1 週間早い)。
- 開花期(日本): 4 月中旬〜5 月上旬(吉岡国光園、ツクベリーやさと等の日本国内資料)。
- 収穫期(米国 NC 南東部): 5 月 25 日頃から開始。早中生(early-midseason) に分類され、'Sampson' よりわずかに遅い。
- 収穫期(日本): 6 月上旬〜6 月下旬(愛知県岡崎市・三河の観光農園実績、ブルーベリーファームおかざき/ブルーベリースターみかわ等)。
- 低温要求量(チルアワー、7.2 ℃以下): 約 500〜600 時間(Oregon Blueberry、Multibaies、ブルーベリースターみかわ等の各業者資料で一致)。低〜中チル要求のサザンハイブッシュ。
- 注: 一部の旧資料(NC Blueberry Journal 2011)には「正式値は不明、Castle Hayne 圃場の萌芽観察からは 800 時間以上の可能性」との記述もあるが、現在は 500〜600 時間が業界標準値として広く流通している。
- 自家結実性: 自家結実性あり(self-fruitful/self-fertile)。特許明細書でも「自家受粉で稔実」と明記。ただし、実用上は他のサザンハイブッシュ品種(O'Neal、Star、Legacy 等)との混植により果実肥大・収量・果粒の揃いが向上。
果実特性
- 果実サイズ: 大粒〜極大粒。平均果重 約 2.0 g(特許明細書)、商業資料では 1.7〜2.5 g。直径 約 20 mm。
- 形状: やや扁平(オブレート)。
- 色: 表面はブルーム(果粉)を伴う 菫青色(violet-blue, RHS 97C〜97D)、ブルームを除くと黒色に近い濃青。商業流通では「明るいライトブルー」と表現されることが多い。
- 果梗痕(picking scar): 小さく乾く。ただし若木や過熟果では 果梗痕周囲の果皮裂け(tearing of skin around stem scar)が約 5% 程度発生 することが弱点として報告されている(NC Blueberry Journal)。
- 食感・風味: 果肉は 'Sampson' より明確に硬く(significantly firmer)、'Croatan' より大幅に優れる硬度。風味評価 78〜81(0〜90 スケールで上位)。甘味と酸味のバランスが良く、ややキリッとした酸味が立つとの日本評価。「大粒でパリッとした食感」が特徴。
- 種子: 完全発達種子 約 29 個/果。
- 収穫後品質: 40 °F(約 4.4 ℃)で 7 日間保存後の販売可能率 96% と非常に優秀。Croatan より全ての貯蔵温度域で有意に優れる、長距離輸送・店頭日持ち適性が高い。
- 用途: 生食(フレッシュマーケット)が主。観光農園の摘み取り、直売、贈答用大粒商材として高評価。冷凍・加工適性もあり。
収量
- 1 株あたり 9.2〜21.8 lbs(約 4.2〜9.9 kg)(特許明細書)。商業苗木業者資料では「12〜15 lbs(約 5.4〜6.8 kg)/株を安定して生産」。
- 'Sampson' と同等の高収量、'Croatan' を上回る。
- 手摘み専用品種。樹形が広がりやすく、枝が硬く曲がりにくいうえに果粒が大きいため、機械収穫には不向き(NC Blueberry Journal、Oregon Blueberry 各社が明記)。
耐寒性・耐病性
- 耐寒性: USDA Zone 6〜10(業者により Zone 4〜10 と表記する例もあり)。サザンハイブッシュとしては比較的耐寒性が広く、ノースカロライナの湿潤温暖気候に最適化されている。
- 耐暑性: 中〜強。NC 沿岸平野・低地の高湿環境に適応。
- 耐病性:
- NC 州で問題となる二大病害(stem canker=茎枯病、stem blight=茎枯細菌病)に対し、圃場で問題発生なし と特許明細書および NCSU 資料で明記。
- 一般的なサザンハイブッシュ病害への抵抗性は概ね良好。
- 弱点: 多花着果すると翌年の樹勢低下(隔年結果傾向)が日本の温暖地圃場で報告されており、剪定による着果調整が必要(ブルーベリーファームおかざき:定植 52 本中約 50% は順調、残り 50% は強剪定・リハビリ要との記録)。
推奨栽培地
- 北米: ノースカロライナ州沿岸平野部(Coastal Plain)の低地ブルーベリー土壌(湿性鉱物質土壌、hydric mineral soils)が最適。NCSU は 手摘み栽培で 'Croatan' の置き換え品種として推奨。NC 内陸部(Piedmont)、山間部(Mountain)、上地(upland)には不向きと明記。
- 'O'Neal'、'Legacy' とともに NC 沿岸低地サザンハイブッシュ三本柱として推奨される。
- 米国南東部(NC・SC・GA・AR 等)、太平洋岸北西部(オレゴン)、米国南部低チル地域で商業導入。
- 日本: 関東〜九州の温暖地(USDA Zone 7〜10 相当)でサザンハイブッシュ栽培可能な地域。三河(愛知)、関東平野部、東海、四国、九州の観光農園および家庭果樹で導入実績あり。北日本(東北・北海道)には不向き。
受粉相性
- 自家結実するが、異品種混植で果粒大型化・収量増・成熟揃いが向上。
- 推奨混植品種(同期する開花期のサザンハイブッシュ):
- O'Neal(花粉親、開花期一致、最も推奨)
- Star
- Legacy
- Sampson
- Sharpblue
- Misty
- ノーザンハイブッシュやラビットアイ系(V. ashei)とは生態系統・開花期が異なるため、受粉相手としては不適。
商業利用状況
- 北米: NC 沿岸部商業ブルーベリー産地で 'Croatan' の後継品種 として導入が進む。手摘み・U-pick・直売向け。大規模機械収穫畑には不向き。
- 米国主要苗木業者: Hartmann's Plant Company(卸)、Backyard Berry Plants、Planting Justice、Oregon Blueberry、Multibaies(欧州) 等で苗木流通。
- 欧州: フランス Multibaies 等が欧州向け低チル温暖地サザンハイブッシュとして取扱い。
- ブランド: NCSU の小果樹育種プログラム(Plant Breeding Consortium)が品種管理。NC State の植物特許品種としてライセンス管理されている(USPP19,990 P3 の存続期間中、無許可繁殖は禁止)。
日本での状況
- 日本国内に導入されており、サザンハイブッシュ系の中粒〜大粒早中生品種として観光農園・家庭果樹で流通。
- 国内苗木流通: 花の大和(ハナノヤマト)オンラインショップ、吉岡国光園、国華園(楽天・Yahoo!)、ブルーベリーカントリー井戸園芸、楽天市場(83 件以上の出品)等で 2 年生苗・10.5 cm ポット苗等が販売されている。
- 観光農園での導入実績:
- ブルーベリースターみかわ(愛知県): 2021 年 12 月植付、2023 年から摘み取りデビュー、現在も提供中。
- ブルーベリーファームおかざき(愛知県岡崎市): 2012 年から 52 本栽培、農園のオープン 2〜3 週目(6 月上旬〜下旬)の中核品種。「大粒でパリッとした食感」が顧客に好評。ただしサザンハイブッシュ特有の樹勢維持の難しさも指摘されている。
- ツクベリーやさと(茨城県)等でも導入。
- 日本国内での評価ポイント: 大粒・パリッとした食感・適度な酸味・色合い良好。観光農園・直売向きの高品質サザンハイブッシュ早中生品種として位置付けられる。
育成者注釈・特記事項
- 'New Hanover' の品種名は、NCSU 本部のあるノースカロライナ州 Raleigh とともに、ノースカロライナ州沿岸部の New Hanover County(ニューハノーバー郡、ウィルミントン市を含む沿岸ブルーベリー産地) に由来する地名命名と推定される(公的明示なし、地理的関連性から)。
- 育成者 James R. Ballington 博士は NCSU 小果樹育種プログラムを長年率いた研究者で、'O'Neal'、'Sampson'、'Pamlico'、'Lenoir' 等多数のサザンハイブッシュ品種を育成。'New Hanover' は彼のキャリア後期の代表作の一つで、NC 沿岸産業の世代交代を担う品種として位置付けられた。
- 'Croatan'(1954 年 USDA-ARS/NC 育成、長らく NC 沿岸部の早中生標準品種)の置き換えを明確な目標として育成され、果実硬度・果粒サイズ・収穫後日持ちで Croatan を全面的に上回るとされる。
- 機械収穫不適という制約があるため、米国大規模ブルーベリー産業の機械収穫主流化の流れ にはやや逆行する性質を持つ。一方で手摘み・U-pick・直売・観光農園・温暖地家庭果樹といった用途では大粒・高品質を活かせる「プレミアム手摘み品種」として今でも価値が高い。
- 日本では 2010 年代以降に観光農園を中心に導入が進み、サザンハイブッシュ早中生の選択肢として定着しつつある。
参考情報源
- USPP19,990 P3 'New Hanover' Plant Patent(米国植物特許全文・Google Patents)
- USPP19,990 出願公開 US20070130659P1(Google Patents)
- 米国植物特許 'New Hanover'(Free Patents Online)
- NCSU Plant Breeding Consortium "New Hanover"
- NCSU Blueberry Genetics & Genomics Laboratory "New Hanover"
- NC Blueberry Journal "Blueberry cultivar 'NEW HANOVER'"(2011 年詳細解説)
- NC State Extension "Blueberry Production for Local Sales and Small Pick-Your-Own Operators"
- Hartmann's Plant Company "New Hanover Blueberry"(卸売業者解説)
- Oregon Blueberry "New Hanover"
- Multibaies(フランス)"New Hanover"
- Backyard Berry Plants "New Hanover Southern Highbush Organic Blueberry Plant"
- Planting Justice "New Hanover Blueberry"
- ブルーベリースターみかわ「ニューハノーバー サザンハイブッシュ系ブルーベリー」
- ブルーベリーファームおかざき「ニューハノーバー」
- 吉岡国光園「ニューハノーバーの苗木(販売)」
- ツクベリーやさと「ニューハノーバーについて」
- 花の大和オンラインショップ「ブルーベリー 苗木 サザンハイブッシュ系 ニューハノーバー 10.5 cm ポット」
- ブルーベリーカントリー井戸園芸「サザンニューハノーバー 挿し木 2 年生苗」
- 楽天市場「ニューハノーバー ブルーベリー」検索結果