チルアワー(低温要求時間)とは
チルアワーとは、冬のあいだに 7.2℃(45°F)以下の温度に当たった積算時間のことです。低温要求時間・低温要求量・チル時間とも呼ばれ、英語では chill hours / chilling requirement と表記します。
ブルーベリーは、この低温を一定時間受けないと休眠から覚めません。植える土地の冬の寒さと、品種が求めるチルアワーが合っているか——これが品種選びで最初に確認すべき条件です。
なぜチルアワーが必要なのか
ブルーベリーを含む落葉果樹は、秋に葉を落として休眠に入ります。この休眠は、ただ寒いあいだ眠っているのではなく、「一定量の低温に当たること」が目覚めの条件になっています。冬の寒さを積算量として数え、必要量に達してはじめて、芽が春の暖かさに反応できる状態になります。
この必要量がチルアワーです。7.2℃(45°F)以下の時間を数えるのが最も一般的な方法で、当図鑑の各品種ページでも「低温要求量(チルアワー)」としてこの基準の数値を記載しています。
足りないとどうなるか
- 萌芽が遅れ、不揃いになる——芽が動く時期がばらつき、株全体の生育が揃わない。
- 開花がばらつく——花期がずれると受粉樹との開花が合わず、受粉そのものが成立しにくくなる。
- 着果しない・実が大きくならない——花芽が落ちたり、着果数が減ったりして収量と果実サイズに影響する。
逆に、チルアワー要求の少ない品種を寒冷地に植えても「低温の摂りすぎ」にはなりません。ただしその場合の問題は別にあり、耐寒性が足りずに枝や花芽が凍害を受けることがあります。暖地向けの品種を寒冷地で育てるときに見るべきなのは、チルアワーではなく耐寒性(USDA Zone)のほうです。
系統別の目安
当図鑑に収録した品種の記載を集約すると、系統ごとの傾向は次のとおりです。
| 系統 | チルアワーの目安 | 適地の傾向 |
|---|---|---|
| ノーザンハイブッシュ系Northern Highbush | 概ね 800〜1,000時間 | 寒冷地〜中間地。冬がしっかり冷える土地向き |
| ハーフハイブッシュ系Half-high | 概ね 800〜1,000時間 | 寒冷地。ノーザンハイブッシュに準じる |
| ラビットアイ系Rabbiteye | 概ね 350〜700時間 | 温暖地。暖地適応性が高い |
| サザンハイブッシュ系Southern Highbush | 150〜1,000時間と幅が非常に広い | 品種ごとに確認が必要。極暖地向けから中間地向けまである |
サザンハイブッシュ系は「暖地向け」と一括りにできません。当図鑑収録品種でも、サンシャインブルーは約150時間で足りる一方、オザークブルーは800〜1,000時間を要します。系統名だけで判断せず、品種ごとの数値を見てください。
品種別チルアワー一覧
当図鑑の各品種ページで数値を確認できたものを抜き出しました。品種名をクリックすると詳細ページへ移動します。
ラビットアイ系(低〜中チル要求)
| 品種名 | チルアワー | 備考 |
|---|---|---|
| ブライトウェルBrightwell | 350〜400時間 (資料により400〜450) | 低〜中レベル。開花フェノロジーは500〜550時間級と一致するとの観察もある |
| クライマックスClimax | 約400〜450時間 | ラビットアイの中では低め。温暖地適性が高い |
| アラパハAlapaha | 約450〜550時間 | 暖地適応性が非常に高い |
| ヴァーノンVernon | 約450〜550時間 | UGA公式・eXtension は450時間以下、植物特許明細書・国内業者は500〜550時間 |
| パウダーブルーPowderblue | 約550〜650時間 (資料により550〜700) | 多くの資料が約600時間と記載 |
| ティフブルーTifblue | 約600〜700時間 (中心値650) | 暖地適応性は高いが、極暖地では不足傾向 |
| カラウェイCallaway | 不明 | 1950年公表の歴史品種。固有の公表値は確認できず(400〜600時間と推定) |
サザンハイブッシュ系(幅が広い)
| 品種名 | チルアワー | 備考 |
|---|---|---|
| サンシャインブルーSunshine Blue | 約150時間 (一部資料150〜200) | 極めて低く、温暖地・無霜地でも結実可能。1本でも実がなる |
| ニューハノーバーNew Hanover | 約500〜600時間 | 複数業者資料で一致。低〜中チル要求 |
| オザークブルーOzarkblue | 約800〜1,000時間 | SHBの中では高め。800時間以上確保できる地域で安定 |
ノーザンハイブッシュ系(高チル要求)
| 品種名 | チルアワー | 備考 |
|---|---|---|
| ブルージェイBluejay | 約1,000時間 | — |
| アーリーブルーEarliblue | 約800〜1,000時間 | — |
| ブルーエッタBluetta | 約800〜1,000時間 | USDA Zone 3〜7 適応から推定。具体値は公的資料に明記なし |
| コビルCoville | 概ね800時間前後 | USDA一次資料の数値は確認できず、北米栽培ガイド等の標準的扱いに基づく |
| スパルタンSpartan | 概ね800〜1,000時間 | — |
| パトリオットPatriot | 約800〜1,000時間 | 資料により1,000時間以上との記載もあり |
| ハーディーブルーHardyblue | 約800時間以上 (800〜1,000との記載も) | — |
| オリンピアOlympia | 800時間以上 | 比較的高い要求量だが、温暖な冬の地域にも適性ありとされる |
| ハンナズチョイスHannah's Choice | 不明 | 公的文書に明示なし。業者表示に500〜600時間の例があるが出典の信頼性は中程度 |
| アトランティックAtlantic | 不明 | 古典品種として一般に800〜1,000時間程度と推定 |
| コンコードConcord | 不明 | NHB古典銘柄として800〜1,000時間相当と推定 |
| スタンレーStanley | 不明 | NHB系として800時間以上を要すると推定 |
ハーフハイブッシュ系ほか(高チル要求)
| 品種名 | チルアワー | 備考 |
|---|---|---|
| チペワChippewa | 約1,000時間以上 | Raintree Nursery 表記 |
| ノースブルーNorthblue | 約800時間以上 | 寒冷地適応品種であり明確な高チル要求型 |
| ポラリスPolaris | 不明 | 極寒地育成。一般にハーフハイブッシュは800〜1,000時間程度とされる |
| セントクラウドSt. Cloud | 不明 | ハーフハイ系一般として約800〜1,000時間が標準的 |
| フレンドシップFriendship | 不明 | 極寒地由来の野生選抜。高チル要求型(800〜1,000時間以上相当)と推定 |
| おおつぶ星Ootsububoshi | 不明 | 農林水産省登録情報・群馬県農業技術センター公開資料にも具体値の明示なし |
品種を選ぶときの考え方
- まず自分の土地の冬の寒さを把握する。気象庁の過去データで、11月〜2月に7.2℃以下となった時間を数えれば概算できます。日平均気温からの推定式もありますが、地形や標高で実際の値は変わるため、あくまで目安として扱ってください。
- 次に、その値を満たす品種を選ぶ。要求量が土地の実力を上回る品種は避けます。
- チルアワーだけで決めない。耐寒性(USDA Zone)、収穫期、受粉樹の要否、樹高、果実サイズも同時に見る必要があります。特にラビットアイ系は自家不和合性のものが多く、単植では実がつきません。
- 開花期のずれに注意する。チルアワー要求が違う品種を混植すると開花期がずれ、受粉樹として機能しないことがあります。受粉樹は開花期が重なる品種から選んでください。
数値を読むときの注意
- 資料によって数値に幅があります。同じ品種でも育成機関の公表値、植物特許明細書、苗木業者のカタログで異なることが珍しくありません。当図鑑では確認できた範囲を併記し、出典の性格が異なる場合はその旨を記載しています。
- 公的資料に数値が明示されていない品種が多くあります。その場合は「不明」と記載し、系統からの推定値であることを明示しています。推定値を確定値として扱わないでください。
- 数え方にも複数のモデルがあります。7.2℃以下の単純積算のほか、Utah モデルやダイナミックモデルなど、温度帯ごとに重み付けを変える方式があります。数値を比較するときは同じ基準どうしか確認してください。当図鑑の記載は原則として 7.2℃以下の積算時間です。
- 栽培は土壌 pH(4.0〜5.0)、排水、日照、灌水の影響も大きく受けます。チルアワーは必要条件のひとつであって、これさえ合えば育つというものではありません。
この図鑑について
ここに載せた数値は、当図鑑の各品種ページに記載した内容を集約したものです。出典は各育成機関・大学(USDA-ARS、UGA、ミネソタ大学、Rutgers NJAES 等)・苗木業者の公開情報で、個別の出典は各品種ページに記載しています。
作成・編集は、群馬県高崎市倉賀野でブルーベリーを栽培しているセボンマルシェです。自分たちの畑の品種選びのために調べた内容を、そのまま公開しています。
系統別の一覧を見る
ノーザンハイブッシュ系61品種
低温要求量 800〜1,000h。冷涼〜温帯適応、USDA Zone 4〜7 が主体。
サザンハイブッシュ系34品種
低温要求量は品種差が大きい(150h〜1,000h)。温暖地〜亜熱帯適応。
ラビットアイ系31品種
低温要求量 350〜700h。暖地適応、自家不和合で混植必須。
ハーフハイブッシュ系8品種
低温要求量 800〜1,000h。極寒地適応(Zone 3-4)、樹高が低い。
ピンク色ノベルティ/半矮性3品種
ピンク〜白色果実の観賞兼食用、半常緑のサンシャインブルーなど。
野生種・国内育成・その他3品種
ワイルドブルーベリー、群馬3兄弟(おおつぶ星)、Eureka シリーズなど。